2回のキス

 一日の終わりは、和咲が思いついたことをする。そういう決まりだった。


 今日のリクエストは、「夜景を見ること」だ。私達はベランダへと移動し、ベンチに座って高い塀に囲まれた夜空を見上げていた。


 夜景というにはちっぽけな景色だ。イルミネーションも街の灯りもない。四角く切り取った小さな夜空がぽっかりと浮かんでいるだけ。けれど、私達二人しか見ることのできない二人きりの夜景だ。


 寒いだろうと思って大きめの毛布に二人で入り、和咲の肩を引き寄せた。和咲の息遣いも心臓の高鳴りも聞こえてくるほどの近さで、彼女はすっと目を閉じた。


 私はその動作から次の演技へと入った。彼女の頬を両の手で触れて、顎を少し上向きに持ち上げる。私は目を閉じて、彼女にキスをした。


 軽いキスだ。少し間をおいて唇を離す。ところが和咲の腕が背中へと回り、強く抱き締められてしまった。彼女の柔らかな手が背中から頭へと移動し、もう一度深く唇を重ねる。


 和咲の手が離れると、彼女はいつものように花のような綺麗な笑顔を浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る