昼休み、ふらっと立ち寄った店のメニューが美味しくて、今度も立ち寄ろうと思っていたのに忘れてて、味を必死に思い返す。
そんな経験を、なぜだかこの作品を読んでいる間にしていた。
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この作品はごく普通の、けれど職人と呼ばれる人物が(テンプレート的な)異世界転移の受付会場に出向いたら、という作品として読むことが出来た。
今回の主人公ジンは、チャーハンに全てを捧げてきた無愛想な男。
彼の職人芸から作られるチャーハンは、てっぺん回った頃に読んだのを強く後悔するほどに美しい。
そんな彼は受付の女神を、ひたすらに中華鍋のごとく振り回す。しかし、そこには悪意はなく、職人としての真直さに溢れており、不快感はない。
チャーハンのテロ度や、ジンと女神との掛け合いもそうだが、この作品における最高の魅力は、プロとしての粋さなのだろうと思う。
随所にある周囲への思いやりであったり、黙々と勤しむストイックさには「こいつはパーティに入ってもチャーハン係だし、それでやっていけるなぁ……」と思わせる凄みがある。
読者はジンという名も知らぬ名店の味を、女神と一緒に追体験していくことになるのだ。
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間違いなく笑えるコメディなのに、読み終えると感慨を覚える不思議な作品だ。
名店との出会いは一期一会。
いつになるかは分からないが、またあの味と再会できることを祈りたい。