第8話

 更に数日が過ぎた。

 函谷関側から現れた秦軍は、バラバラになって数が減って行き、今や少数だ。

 兵糧がなさそうだ。補給があるとは、思えない。陣も簡易的だし。


「劇辛大将軍殿! あんな敗残兵など、攻め滅ぼしてしまいませんか? そうすれば、咸陽に専念できます!」


「楚将殿……。手負いの獣が一番危ないのよ? 後数日で崩壊するのに、わざわざ手を下す必要はないって」


 万が一、この楚将が討ち取られたら全部がひっくり返る可能性もある。

 安全に行こうね。


 ここで、それが見えた。


「劇辛大将軍殿! 合従軍が来ましたぞ! 援軍です!」


 マジか~。

 春信君は、函谷関を落として、龐煖さんは、蕞を攻略したのね。

 それを見た秦軍は、山の中に消えた。もう、無視していい勢力だね。



 陣を出て出迎える。


「春信君と龐煖さん。待ってたのよ~」


「ふっ。劇辛殿も良く背後を突いてくれた。途中から秦軍に動揺が見られたので、短期間で攻略ができたよ」


 李牧さんも含めて、4人で握手を交わす。

 戦争は、相手の嫌がることをし続ければ、勝てるんだよね~。

 これで、勝ちは決まったかな?



 一日休憩を挟んで、咸陽の包囲戦に移行だ。兵士は、長旅で疲れが見えたので、一息入れさせる。

 もうね、五ヵ国全ての士気が高いよ。勝ち戦なのは、決まってるしね。

 斉国も参加すれば良かったのにな~。


「攻撃開始~!」


 春信君の号令と共に、城攻めが始まった。

 始まった――んだけど?


「抵抗が、少ないね……」


 つうか、兵士が見えない?

 城壁を登った兵士が、城門を開けた。

 騎兵隊が突入する……。



「秦王嬴政えいせいは、逃げたの?」


 逃げ遅れた、住民に聞いた。降伏した官僚かな?


「はい、昨日出発されました。旧王都・ように向かったみたいです。もしくは、漢中か蜀に向かったのかもしれません」


 う~ん。秦王を逃がしてしまったか。

 兵士の休憩を入れたのは、失敗だったかな?


「どうします? 秦王を追いますか?」


 ここで、合従軍内で意見が分かれた。

 秦国に、散々煮え湯を飲まされた国は、追うと言い出し、楚国は土地が欲しいのだとか。

 燕国も財宝が欲しいな~。それを売って食料に替えたい。


 結局は、合従軍はここまでとして、各国で動くことで落ち着いた。

 戦後の利権を巡って、対立するのは避けたいな。

 最悪、五ヵ国で争い合って、斉国が大頭してくるかもしれないし。





 とりあえず、咸陽は落ちた。

 秦王は逃げたっぽいけど、都を抑えたので、もう再起はないはずだ。

 戦国七雄の内、本当であれば統一する秦国が真っ先に落ちたのだ。

 この後の歴史が、怖いな~。


「劇辛殿……。ここにおられましたか」


 龐煖さんが来ましたよ。

 春信君と他国の大将軍もだ。李牧もいる。


「ここなら、咸陽が一望できると思いましてね。風に当たっていました。血の海にならなくて、本当に良かったですね~」


 即席でテーブルと料理が運ばれて来る。


「劇辛殿……。貴殿の智謀奇策で秦国を滅ぼせました。また、五ヵ国の同盟も組めましたし、これから中華は安定するでしょう。貴殿の働きは、歴史に刻まれることでしょう」


 いやいや。皆で頑張った成果だしね。

 儂一人だけってのはないでしょう。それに、総大将は春信君じゃなかった?

 それよりも……。


「斉国をどうにかしないとですね~。このまま、攻め込みますか?」


 全員が笑い出す。


「「「まったく、劇辛殿は戦がお好きですな」」」


 好きじゃないよ? 任せられる人がいないだけなんだよ。

 もう引退したんだけど?

 その後、盃を交わす。


「「「中原の安定のために!」」」


 ふう~、やれやれですね。

 まだまだ、戦国の世は続きそうだな~。


 90歳の体には、キッツいな~。

 豊かな老後は過ごせそうにないよ。

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【先ず隗より始めよ】から随分と経っているんですけど?~劇辛は60年も戦い続けて来ました。もう休ませてよ~ 信仙夜祭 @tomi1070

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