その2 どこで買ったか
軽トラの入手にあたっては、わざわざ都内まで出かけて行って買った。
なんでそんな手のかかるようなことをしたかというと、都会では新古車業者がおり、安くかつ迅速に軽トラを入手できるからである。田舎では、結構なニーズがあるので軽トラを大幅値引きして売っているところなんてないし、だいたい入手するまでに時間がかかるのである。
いくら流行っているからといったって、都会では、そういう趣味の人が乗る程度で乗用車よりは売れないわけだ。ということを、修理業者の方からお聞きしてわざわざ都内の業者に出向いて買ったわけである。
で、実際買いに行った。そしたら、その業者さんの調子のいいことといったらない。
「いや、旦那さん、いいクルマだよこれ。後輪駆動ベースの四駆、見てよこのエンジン、やっぱり後付けターボが付いてなきゃねえ、この手の軽トラは。ブーストは抑えてるから車検も通るしウチでしかできないよ、こんなこと。パワーも十分、坂道だって高速だっていいねえ、首都高でバッチリ走れますよ。お値段はサイトに表示したとおり、あとはこれっぽっちもいらないです」
そりゃあそうだろう。近頃、この手の新古車屋はウエブサイトにワンプライスで載せてるから、どこが安いか一発で分かってしまう。これ以上払う阿呆もおるまいし、まけろと言ったところで下げられないのだろう。働く車として開発された軽トラにターボをつけるのが一部で流行ってるが、乗用車的に使いたい人のためにそうしてるのである。それでも、どうしても儲けたいらしく、やたらとオプションをつけたがって、実に困った。
「お客さん、こういうクルマはね、やっぱアゲとかないといけないでしょ、それにゴツゴツの大径タイヤを履いて、そんでもって荷台も塗装して、そうねえラプター塗装なんてこのあたりじゃあ常識になってる感じするし、ターボだってもっとすごいのあるんです、ぶっちぎりです」
わたしはゴモゴモとなんとか断ろうとした。「ラプター塗装」というのは荷台が傷つかないように施す真っ黒な特殊塗料である。非常に高くて、どんなに安くたって荷台を塗装したら十万ではすまない。会社員の自分が乗用車として使うため、安くはないけど実用的ターボつけてるのに、そんな余計なことするかって。だいたい、丘だらけの田舎なのでターボが付いてなければ、普段のりの乗用車として使えないからだよ。別に首都高ルーレット・バトルをやりたいわけじゃあない。
「いや、そういうの、いいのですぐ売ってください。オプションなんていらないですから。つか、そういう趣味じゃないので」
「もったいないなあ。カッコよくなりますよ」
「いいから、このクルマに乗ってそのまま自宅に帰りたいので」
「しょうがないですねえ、じゃあキーお渡しいたしますので。気が変わったらまた、塗装とか考えてください、あとウチの工場でいろいろと……」
気が変わる気はしなかったが、愛想よくうなずいて帰路についた。前のクルマが高く売れたので、そんなに大きな出費にはならずに済んだ。コイツとの付き合いは長くなりそうだから、大事に乗ろうと思った。
もしトラ ーもし会社員が軽トラを買ったらー いわのふ @IVANOV
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