もしトラ ーもし会社員が軽トラを買ったらー

いわのふ

その1 軽トラを買った

 わたしは地方都市の郊外に位置する「ベッドタウン」にすんでいる会社員である。「地方都市」の「ベッドタウン」なんていうのは、バブル後期に開発されたあげく、売れずに激安で販売された住宅地である。周辺はいわゆるド田舎である。どれくらいド田舎かというと、そこら中が田んぼで、果樹園が広がり他は森林が広がっていて、夏には地面にカブトムシが落ちているといった具合である。


 当然のこと、住宅地周辺には農家がおられ当たり前のように軽トラックを持っており、そこら中を朝から農機具を積んだ軽トラックが走っている。軽トラックで走るくらいならまだしも、ナンバーのないトラクターで、時速20キロにて国道を堂々と走ったりなされるわけで、こちらが新参者ながら迷惑この上ない。農家にしたら昔からそうしてきたわけで、わたしたちの方が邪魔なのかもしれないが。


 で、軽トラ(以降、軽トラックとか書くのも面倒なので略す)というのは実は都会では、ちょっとしたブームになっている。わざわざ軽トラにのり、やたらとゴツいタイヤを履かせて、屋根には巨大なルーフキャリアが付いている。足回りはこれまたリフトアップしてあって、やたらと背の高い「アゲトラ」なる改造までしてるわけだ。実用性はともかく、これは一種のファッションである。


 なぜか、軽トラブームはアメリカやイギリスに飛び火して、現地ではやたらと繁殖してるそうである。なんでまた、こんな地方の農家御用達の(といったら失礼だけど)ダサいクルマに乗りたがるのか良くは分からないがそういうのが好きな連中がいるわけだ。


 好まれる理由はいろいろとあるけれど、「どんな悪路でも走れ、無理してもぶちこわれず、ガラのわりには積載量がある」というのがそれにあたるそうだ。現地ではインフレが激しく、日本の中古軽トラが、日本ならちょっとしたスポーツカーが買えてしまうくらいの価格で売っているそうである。


 と、そんなこと言ってる自分が「必要にかられ」軽トラを買ってしまったのである。いや、そんな流行りにながされたわけじゃあなくて、ちゃんとした理由がある。


 一つは、「バブルのはじけた地方都市のベッドタウン」ということで、どんな家だって立派な庭があり、巨大な庭木の一本や二本、植えてるわけで、というか最初から住宅業者が植えちゃっている。そういうのが植えてない庭には、庭木業者がやってきて、「シンボルツリー」の必要性をうったえるものだから、買ってしまったりするのである。そのあとで、しょうがなく剪定とかするのであるが、ものすごい量の廃棄物が生ずるわけである。


 ご近所の住宅はどうしてるかというと、引退したご老人がたの「シルバー人材センター」などを活用するわけであるが、ちかごろの爺様がたときたら、やたらと元気で、おねえさんがたのいる飲み屋に行くカネも必要らしく、そう安いわけではない。


 しかし、そういった方々に頼むのでもなければ、大量の枝葉を刈るのも面倒だし、普通のクルマでは処理場まではこべないのである。さらに、うちには怠惰な巨犬がおり、ほっておくとぶくぶくと太ってしまうし、散歩にはいきたがらないしで、しょうがないから、そいつの運動する気分が乗るような広い河川敷まで運ぶのに必要になったのである。


 まあ、そんな理由で軽トラに乗っているわけだ。


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