後編「降りしきる雨」

 ここは、森の中のお婆さんの家。年季が入った木製の家だ。

「お婆さん、私来たよ」

 赤ずきんがトントンとノックをすると、静まり返っており、彼女はドアが開いていたので入って、寝室まで言った。




 すると、お婆さんはベッドで、毛布を頭から被って横になっていた。

「お婆さん、赤ずきんよ。大好きなぶどう酒と、かぼちゃのパイを持ってきたの。どうしたの?お婆さん病気?」

 すると、お婆さんは「ああ、起きられないから、もう少し近くにおいで」と赤ずきんを手招いた。



 彼女が近くに寄ると、お婆さんは毛布から顔を出した。

 でも、なぜだか落ち着かない赤ずきんは、自分が感じる違和感をお婆さんに聞いてみた。




「お婆さんのお目目はなんで、そんなに大きいの?」

「それはね、お前の可愛い姿をよく見る為さ」


「お婆さんのお手々は、どうしてそんなに大きいの?」

「それはね、お前を良く掴むためさ」


「お婆さんのお耳は、どうしてそんなにピンと立っているの?」

「それはね、お前の綺麗な声が良く聴こえるようにさ」


 赤ずきんは、一番聞きたい質問をしました。

「お婆さんのお口は、なんでそんなに大きいの?」


「それは、赤ずきん!お前を喰う為だぁ――!!!」


 らんらんと光る目、耳まで裂けた口、鋭い爪、毛布をはいで、襲いかかって来たのは、紛れもなく花畑で会ったタスタで、獣の本能に抗えなくなり、凶暴な狼に変わった姿でした。


 タスタはあの後、狼になり、お婆さんの家に行ってお婆さんをその腹の中に納めていたのです。

「タスタッ!」

 赤ずきんは、青ざめて悲鳴を上げる間もなく、狼タスタに食べられてしまいました。





 ◆



 タスタは、お婆さんの家から、出て来た所を彼女の知り合いの猟師に見つかり、猟銃で撃ち殺され、腹から聴こえて来る赤ずきんの声を聴いた猟師は、タスタの腹をナイフで切り裂きました。


 すると、中から赤ずきんとお婆さんが無事に生きて出て来たのです。

 腹を切り裂かれ、息絶えているタスタを見た赤ずきんは、涙を流して泣き叫びました。


「タスタ!タスタ、なんで!どうしてこんなことに!」



 すると、みるみる狼の姿から、優しかった獣人タスタの姿に戻って行きます。

 子供を殺めてしまったと、驚いて青ざめる猟師とお婆さん。



 赤ずきんは、タスタの冷たくなっていく体を抱いて泣き崩れた。

 お婆さんは、タスタが可哀想だからと、彼のぱっくり開いたお腹の傷口を針と糸で縫ってくれました。

 悲しみと後悔に包まれる赤ずきん達。




 ◆



 そして、赤ずきんは、お婆さん達と小高い丘に丁寧にタスタの亡き骸を埋めてお墓を作りました。お墓には、赤ずきんが花畑で摘んで来た花と、りんごが供えられました。

 手を組み、頭を下げる猟師とお婆さん。


 すると、その時、頭巾を片時も脱がなかった赤ずきんが、タスタのお墓の前で頭巾を脱いでこうべれたのです。その姿にお婆さんも猟師も涙を誘いました。


 その日、空を覆った灰色の雲から涙雨がいつまでも、いつまでも降り続いて赤ずきんの頬を濡らしたと伝えられています。



 ―終わりー 


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 〇登場人物紹介〇

 お婆さん


 猟師


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 最後までお読み頂いてありがとうございます。


 ◆タスタ…珍しいバッドエンディングでした…悲しい。

 いつもと違って後味が悪くてすみません。

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新釈・赤ずきんちゃん 夢月みつき @ca8000k

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