死ぬ瞬間のひとときの身勝手

ある男が死に際して幻想の中にいる。駅のホームに立ちながら男はどこへも行けない。行く先を持たない空虚な男に少女は許しを与えに現れた。

幻想的な文体でありながら、男に都合の良い展開が書かれています。これだけだとあまり良い印象に聞こえないかもしれませんがそれは違います。その乖離が私はこの作品の魅力なのだと感じました。

この男は人生を終えてからその総括を他者に求めなければいけない。生きている間にもっと真剣に生きるべきだと思います。

真剣に生きるとはどういうことかというとたくさんの人を笑顔にしたのならたくさんの感謝で満ちていているべきです。受け取るべきです。人を笑顔にすることと、感謝を受け取ることはおおよそ同価値ではないでしょうか。男は不真面目なことに他者からの感謝を受け取らず人生の価値の半分を捨ててしまったのだと思います。

そして本来は笑顔にした人から直接受け取るべきだった充足を、まったく見しらぬ少女から与えられ満足してしまいます。

そこに強烈な人間臭さがありこの作品の核になっています。生きてるうちに人生を賭けて自ら手にするべき救いを都合の良い他人から与えられることの滑稽さ、しかし死に際してもう覆らないから容易に受け入れてしまう人間の性。私も男と同じ状況であればそうなってしまうのだと思います。

そしてそのその様子が幻想的な文章に隠されるように書かれていることがこのテーマをより強烈にしています。

生き方について深く考えさせられるいい作品です。