最悪の呪術を操り、多くの民を殺戮し、恐れられた『死神』トゥース。
かつての彼女は人間であり、しかし奴隷だった。虐げられた屈辱と恨みは、個人を超えて社会や国家、果ては世界そのものへ向かい、偶然の出会いによって得た力も『復讐』のために振るっていた。
死神討伐部隊が結成され、彼女を斃すため『勇者』達が差し向けられても。それによって滅ぼされるとしても。彼女は世界を憎むことを止められず、最期の。そして最悪の呪術でもって世界を滅ぼそうとした。
はずだった。
次にトゥースが目覚めたのは、違う時間の、違う命。
奴隷ではなく。ただの。幸せな家庭の女の子メイリアとして過ごしていた。
なんの因果か。メイリアとして生きる世界は平和で穏やかで、そして楽しくて。トゥースとして引き継いだ呪術の力も、その幸せを守るために使いたいと、死神ならぬメイリアは思うようになる。
だがそんなメイリアの前に、死神トゥースが現れる。
メイリアが生きる世界は、死神トゥースが死ぬ十年前の世界であり。
死神を。かつての自分を。止めなければ。世界が滅んでしまう。
……というお話。
魔物や人間が争い合う過酷な世界と、魔女たちが守る平和な世界が隣り合い、時に踏み越え、裏返る厚みのある世界観が魅力です。
文章も丁寧で、暗く過酷なトゥースの世界と、明るく優しさに満ちたメイリアの世界が、同じながら違うモノとして描かれています。
復讐に身を投じ、呪いに穢れても尚一片の人間性を捨てきれなかったトゥース。その彼女が転生し、復讐を棄て、新たな命で幸せを生きようとするメイリア。一つの魂の二人の人間が、それぞれの因果に囚われて、大きなうねりに巻き込まれていきます。
人間を守り信仰もされる三人の色欲、暴食、怠惰の魔女も楽しげで良い感じです。第四話の時点ではこの三人の存在が確認されていますが、他にはどんな魔女がいるのか、以降の展開も楽しみにしています。