ペーパードライバー
羽弦トリス
第1話彼女とドライブ
朝倉洋一(28)には、社内恋愛で丸川いずみ(25)という名前の彼女がいた。付き合い始めて3か月。
近場の飲食店や映画を観たり楽しんでいた。
だが、そろそろ遠くに行きたい。
「ねえ、洋一、来週末ドライブしたい」
もう、電車移動やバス移動は飽きてきたのだ。
そう言われた洋一は車は持っていないので、その言葉に悩んだ。レンタカーを借りようとしたが、弟が幸い車を持っていたので、弟に事情を話し、車を借りた。
スカイラインGTRであった。
前日、何処へ行くか?話しあった。安宿を探すと、「大塩民宿」という、宿が空いていた為、京都だが名古屋から一号線で真っすぐだから、その旅館に決めた。
京都の繁華な街からちょっと離れていた。右京区の山奥だ。
洋一は小さな釣り竿を用意して、旅館の脇の川で魚を釣ろうと考えていた。
前日に二人で行きたい場所をチェックして、目指すは渡月橋。
この紅葉の季節、混雑するのは覚悟していた。
翌朝、洋一の家に着いてインターホンを
鳴らした。中から洋一が現れ、いずみは荷物をスカイラインのトランクに積んだ。そこには既に、釣り竿やバッグが積んであった。
弟からカギを受け取り、運転席に洋一、助手席にいずみが乗った。
そこで、洋一の顔色が変わった。
MT車ではないか!
洋一は免許取得後はAT車しか運転していない。社用車はAT車しかない。その社用車も助手席ばかり座っていた。
この時代にMT車とは……。
もちろん、洋一の運転免許証はMT車だが。数年間、もちろんMT車もAT車さえも運転していない。
いわゆるペーパードライバーなのだ。
もう、出発時刻だ。
「洋一って、マニュアル車運転出来るんだね。カッコイイ!洋一の運転姿想像しただけで、既にカッコイイ」
と、いずみはそう言った。しかし、洋一はそれどころじゃ無かった。
どれが、クラッチか、ブレーキか分からなくなっていた。
「ちょっと待ってて」
と、洋一は車を降りて家に戻り直ぐに出てきた。
弟にクラッチとブレーキの位置を聞いてきたのだ。
二人はシートベルトをすると、
洋一はエンジンをかけた。
洋一は自動車学校以来のMT車で緊張した。
クラッチを踏み、1速に入れてクラッチをゆっくり足から離した。
ブルルッ
スカイラインはエンストした。
「ごめん、今のはギャグだから」
と、洋一はそう言って焦っていた。彼女にペーパードライバーであることをバレたくない。
自動車学校時代を思い出すんだ!
洋一は再びエンジンを掛けてた。洋一の弟は不安気に窓から様子を見ていた。エンストすると、ゲラゲラ笑った。
この後、災難続きの旅行となのるのだが、洋一は気付いていなかった。
『クラッチはゆっくり離して、アクセルを踏んで、また、クラッチを踏んで2速、3速と変速すれば良いのだ。落ち着け僕。いずみにカッコイイ姿を見せるんだ!』
そう、思う洋一だったのだが。
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