ファッションセンス

 錬金術師の集まる工房に向かうと、クエストを達成するためなのか……帰還石の作成請負を求めるプレイヤーがたくさん存在しており、難なく帰還石を作成することができた。


「しっかし、魔鉱石の等級によって必要個数違うとか言うけど……等級は専門家しか分からないのは、面倒だな」

「そうですね。そんな人はいないと信じたいですが……嘘を付いて騙す人とか……いずれ出てくるのでしょうか……」

「んー、どうだろうな? ライオンはサブ垢とか作れないから、捨て垢は作れないだろうし……詐欺行為が発覚したら……ネット掲示板とかにも晒されるだろうから、そんなに出てこないとは思うけど……変な奴は一定数いるからなぁ……」


 せめて完全に中立的な立場ともいえるNPCが鑑定できればいいのだが……今回の件もテスターとして運営に報告案件かな。


「そういえば、話は変わるのですが……複数個作成すると、お安くなるサービスがあったのに1つでよかったのですか?」

「んー、予備分含めて2〜3個は常備したいが……魔鉱石は装備品にも使うからなぁ。それに……常にカリンと挑むなら今回作った分は予備ってことになるからな」

「――! ですね! ですね! 次回は私の帰還石を使うので、今回作ったアオイ君のが予備分です!」

「だろ? 毎回作るのは面倒かもだけど……今は節約しようぜ」

「はい!」


 帰還石を作成した俺はカリンと共にミランの元へと戻るのであった。



  ◆



「ミランちゃん、ただいまー」

「お! カリンにアオイ、おかえりー」

「ただいま。早速だが、ダンジョン産の素材をすべて渡す。装備品一式揃えるのは厳しいと思うから……何がどれだけ作れるのかを教えてくれると助かる」

「えっと、念のために言っておくけど、新装備って言えばいいのかな? あのカジュアルな軽装は鎧だけだからね。だから、鎧ってか服を最優先にしたほうがいいと思うよ」

「そうなのか?」

「うん。手袋っぽいグローブのような籠手とか、ブーツみたいなレガースもあるけど、それは元からあったからね」


 言われてみれば、魔法使いや一部の弓使いが装備している手袋グローブはカジュアルな見た目だった。


「なるほど」

「あ! 例外的というか……超一部だけどカジュアルな兜ってか頭装備も作れるよ」

「帽子みたいな?」

「うんにゃ。フード」

「うん。パーカーに付いてるフード」

「え? パーカーのフードって兜なのか?」

「兜というか頭装備? んー、フードと切り離せないからセット装備になるのかな?」


 パーカーはセット装備だったのか……。


「ん? そうなると、パーカーを装備するとこの鉄の額当てはどうなるんだ?」


 俺は頭に装備していた鉄製の鉢巻きを指さし訊ねる。


「えっとね、外部の掲示板からの情報だけど……同じ箇所に複数の装備品を装備すると痛いらしいよ」

「痛い?」

「うん。何か、それぞれの力が共鳴してうんたらかんたら……とにかく痛いみたい」

「痛いだけで、防御力は重複されるのか?」

「されるらしいけど……痛いだけあって体力もガンガン減るから実用は難しいらしいよ。検証したいなら、革の手袋でも貸そうか?」


 ミランはそう言って茶色い革製の手袋を差し出してきた。


「んー、痛いんだろ?」


 俺は受け取った手袋に視線を落とし、確認する。


「頭は洒落にならないっぽい。手と腕なら……ね?」


 可愛らしい仕草で「ね?」と言われても、困るのだが。


 とは言え、検証は大切な。ひょっとしたら、今後使える手段になる可能性も十分にあるし……。


 俺は勇気を振り絞り、鉄の籠手を装備した状態で、革の手袋を装着した。


 ――!


 ぐああああああ!?


 バカ! バカ! バカ! 俺のバカ!


 俺は急いで、装着した革の手袋を外して床に投げつけた。


 何て言えばいいんだろ? 共鳴……共鳴か。言うなれば2つの痛みが腕と手の中で暴れまくって、その2つの痛みが衝突すると、電気が流れたようなとびきり強烈な痛みが走るのだ。


 んで、端末で確認すると体力は2%減っていた。1秒に1%減るのか?


 とりあえず、防御力や防具の効果が重複したとしても……実用性は0と判断せざるを得ない結果となった。


「アオイ君……大丈夫ですか?」

「……だ、大丈夫だ。ただ、絶対に真似しないほうがいいぞ」

「は、はい。わかりました」

「さてと……検証は終わった。本題に戻ろう。ミラン、これだけの素材で2人分の服とカリンの弓は作れそうか?」

「んー、何とかなりそうかな? 素材が余ったら使えそうな装備品を見繕う? それとも返却する?」

「使えそうな装備品を頼む」

「了解! ちなみに、服のデザインだけど希望はある?」

「デザイン?」

「うん。ストリート系とかコンサバとかアメカジとか」

「ん? 服にはそこまで詳しくないが……例えば、あのプレイヤーの服と……」


 俺がデニムとスウェットを着用したプレイヤーを指差すと、


「アレはアメカジ系だね」


 ミランがその服の系統を答えてくれる。


「あのプレイヤーの服だと」

「アレはストリート系かな」

「性能は一緒なのか?」

「んー、アオイが指した2人のプレイヤーの防具の性能は分からないけど……うちが作ると一緒になるね」

「へ? そうなの?」

「うん。服の性能を左右するのは、素材と職人の技能だからね」

「なるほど……」


 見方を変えれば、性能だけど追求しても他人と見た目が被らないってことになるのか。


 オンラインゲームの性質から考えたら、見た目にオリジナリティを出せるのは大きなセールスポイントだ。


 思い切った施策だな。


 しかし、こうなると厄介だ。


 決められた装備やスキンから、自身が満足する最高の外見を成形することは得意であると自負していたが……ライブオンラインの場合は求められるのは、どちらかと言えば現実世界のファッションセンスだ。


 さすがに俺も高校生だ。服は親だけじゃなく自分で選んだりもするが……あくまで現実の俺が好むのは無難な……決して目立たず、周囲に溶け込み、汎用性に溢れた服装だ。


 ストリート系? アメカジ系?


 何ソレ?


 STR型とかVIT型とかじゃなくて?


 悩むに悩んだ俺は――


「ミランにすべて任せてもいいか?」

「全部? リクエストは本当にないの?」

「……ない。餅は餅屋って言うだろ? 俺はミランのセンスを信じるよ」


 プレイヤーの服装を一目見ただけで○○系と答えられるミランなら、きっとファッションセンスに優れているはず。


「んー、全投げは困るなぁ……カリン少し手伝ってくれる?」

「私がですか?」

「いいじゃん! 一緒にアオイを改造しようよ!」

「アオイ君を……改造ですか?」

「そそ、カリン色に――」

「ちょっと! ミーちゃん、怒りますよ! ……でも、わかりました。手伝います。ミーちゃんが困っているみたいだから、仕方なくですからね!」

「はいはい。カリンちゃん、ありがとうね」

「と言うわけで、うちとカリンは少し装備を作るのに時間がかかるから、アオイは3時間ほど時間を潰してきて」

「了解」


 こうして装備品の作成を丸投げした俺は一人、その場を後にするのであった。

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ライブオンライン〜約束された神ゲーは終末世界のチュートリアル!?〜 ガチャ空 @GACHA-SKY

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