技術革新
周囲の様子……?
いかにもファンタジー世界と言わんばかりの重装備の騎士然とした男性プレイヤー、左胸のみを守るタイプの皮の胸当てを装備し弓を担いだ狩人然としたプレイヤー、いかにもゲーム世界と言わんばかりのパーカーの上にジャケットを羽織ったカジュアルな装いながらも大剣を担いだ男性プレイヤー。
――!?
よくよく観察してみると、いかにもファンタジーな装備をしているプレイヤーの中に、1割ほどではあるがカジュアルな出で立ちのプレイヤーが混ざっていた。
「スキンでも実装されたか?」
スキンとは、ゲーム――特にオンラインゲームによくある、
「ブッブー! ハズレ!」
ミランは楽しそうに笑いながら、答える。
んー、ハズレか……。そうなると、他に周囲の変化は……。
改めて周囲を見渡すが、正解が分からない。
「降参。答えを教えてくれ」
俺は両手を上げて、首を横に振った。
「アオイの着眼点は合ってたよ。ただ、スキンじゃないのよ」
「スキンじゃない?」
「そそ。アオイが目にしている違和感の正体は見映えだけを変えるスキンじゃないのよ」
見映え
「あのプレイヤーが身に付けいる服は
ミランに訊ねた。
「ピンポン、ピンポーン! 正解♪」
俺の勝手なイメージだが……ライブオンラインはリアリティをかなり重視していた。それが、ここに来て見た目重視の装備を実装するだと?
「性能は?」
「アオイとカリンからみれば、悪くないんじゃないかなぁ」
「俺とカリンからみれば……?」
「うん。だってあの新装備は
「軽装?」
「そそ。重装と比べると、軽いし、動きを阻害しないし、防刃性にも優れていて……ある程度の打撃も吸収できるとか……なんとか?」
「んで、見た目も良いと……言うことなしだな」
「まぁ、デメリットもあるよ。素材集めが大変なことと……軽くて薄いことかな」
「軽くて薄いこと……?」
俺はミランの言葉に首を捻る。
「そそ。メリットにも感じるけど、タンクをメインにしているクラスから見ると、デメリットみたいだよ。衝撃に弱いというか、その場で踏ん張れないというか……そんな感じみたい」
「要は防御性能はゴツゴツの鎧である重装の方が高いと」
「ま、そんなとこかな。んで、本題!」
ミランは目を輝かせ、ポンと手を叩く。
「素材を集めてこい……こんなところか?」
「わぉ! 凄いね! ほぼ正解だよ!」
「ほぼ?」
「うちは『集めてこい!』なんて言わないよ。正確には、『お願い! 素材集めを手伝って!』かな?」
ミランは茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた。
「へいへい。んで、必要な素材は?」
「必須素材は魔鉱石とかいうダンジョンでしか採れない鉱石。他には魔力を含んだ素材――簡単に言えば魔物を倒したときに拾える素材だね」
「魔鉱石?」
「うん。ひょっとして、持ってる?」
「これだろ?」
俺は端末から魔鉱石を取り出し、ミランに手渡した。
「おぉ! イイネ! スゴイね!」
「ってか、めっちゃ鉱石だけど……これからアレができるのか?」
鉱石から作る服とは……?
俺は通りがかったプレイヤーが着用していたパーカーに視線を合わせて、訊ねた。
「えっとね……特殊な技法で魔鉱石を溶かしてから、色々と加工すると最終的に布になるのよ」
「鉱石が?」
「鉱石というか魔鉱石ね。もっと正確に言えば、魔鉱石を溶かすというより魔力を抽出して……その抽出した魔力を布に……って、ちゃんと説明しても意味不明でしょ?」
「んー、まぁ、そうだな。無粋な質問だったな……すまん」
一般的な鍛冶の知識も持ち合わせていないのに、特殊な鍛冶のことを言われても、分かる訳がない。
「とりあえず、そんなこんなでうちのクエストを完了させるためには、魔鉱石が必要なわけなのよ」
「了解。とりあえず、あるだけ渡せばいいか?」
「あ! 私の分も渡しますね」
俺とカリンが端末を操作し魔鉱石を取り出そうとすると、
「ちょーーっと待ったぁあ!」
ミランの突然なハイテンションの大声に思わずビクリと身体を震わせる。
「なに?」
「魔鉱石はダンジョン探索の命綱――帰還石の素材でもあるから、少しは残しておいたほうがいいよ」
「んー、錬金は専門外だし……魔鉱石の等級によっても変わるだろうしなぁ……とりあえず、先に帰還石を作成してもらって、余ったのを売ってくれれば、それでいいよ」
「買わなくていいよ。その代わり……」
「オッケー! 交換条件で装備一式ね!」
「いやいや、それだと割に合わないだろ? 値引きでいいよ」
「素材いっぱいくれるんでしょ? むしろ、うちが少し代金払うよ」
いっぱいってどのくらいだ? 全部渡せばいいのか?
んー、ライブオンラインを始めてから相場をまったく調べてない俺がいる。
まぁ、ミランならボッタクることはないだろうからいいけど……このままなぁなぁでいいのか?
と、悩んでいたが……
「アオイ君! とりあえず、帰還石を作りに行きましょうか!」
「お、おう」
「あはは、いってらっしゃーい!」
結局、元気いっぱいのカリンに腕を引っ張られ、その場を後にするのであった。
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