困浴

高黄森哉

風呂場


 銭湯にやってきた。実をいうと、ここまで来た経緯はよく覚えていない。それだけ、疲れていたのだ。遠くまで来て仕事をして、どろどろに疲れていた。それで、銭湯を見つけたのだ。そして、気づいたら、湯につかっていた。


 風呂屋に来たのは、いつぶりだろう。昔は、家族が連れて行ってくれたものだけど、いつからか、行かなくなった。そういう場所は大抵、大浴場なので、こういったこじんまりとした、お風呂屋は、考えてみれば、人生で初めてだ。


「ここの銭湯は初めてか。その顔は、やはりそうか」


 急に声をかけられて、ひやっとした。その声は、えらく澄んでいた。振り返ると、同年代くらいの女が立っていた。


「は、初めてですが」

「そんなことだろうと思った。では、ゆっくり話そうじゃないか。幸い、この時間は人が少ない。心配するな」


 彼女は、遠慮なく、隣にざばん、と身を浸す。


「ふふふ。驚いているな。そうだと思った。さて、君の推理を教えてくれ。私に対す推理」


 なるほど、彼女は推理を要求しているのか。じゃあ、きっと、なにか誤解があるのだろう。


「例えば、混浴とかな。私と君がここにいる理由を共存させることが出来る。そして私が混浴ではないと言ったら、どうするかな」


 にやにやしながら、尋ねる。


「どうするって、別にどうも」


 居続けるのは、気まずいのも確か。しかし、こっちに正義はあるのだ。


「ふふふ。なにか誤解があるのかな。まあ、無理もないだろう」


 と彼女は言った。誤解しているのは、おそらく、貴方のほうだ。


「さて、じゃあ、こういうのはどうだろう。私はこうして、タオルに身を包んでいるから、中がどうなっているかは分からないわけだ。つまり、私は男である」

「じゃあ、その胸のふくらみは」

「体質だ。触るか」

「そんなバカな。遠慮します」


 他人の体に触れるのは、なんだか、嫌な感じがする。


「他にどんな可能性が考えられる」

「なにか、勘違いしたとか」


 そうだろう。きっと、勘違いがあるに違いない。無理もない。


「はっはっは。やはりそうか。私が間違えるわけないだろう。ここの常連なのだから。君だよ、君が間違えているのだよ。ここは、入口が分かりにくいからな。たまに女湯と男湯を間違えるのだ。さて、戻りたまへ」

「いいえ、勘違いしてます。ここが女湯だとは知ってますよ。ほら、見てください」


 私は、腰に巻いたタオルを、はらりと解いた。勘違いされやすいのだ。


「いやいや、知ってたよ。私が言いたいのは、ここが男湯だということだ。これをみろ」


 彼女はタオルを、はらりとおろした。そこには、あまりにも立派過ぎるイチモツが、、、。


「フタナリだ」

 

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困浴 高黄森哉 @kamikawa2001

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