きみの指先
幸いなことに、様々な仕事をする機会に恵まれた鳥尾巻は、友人の誘いで、とある放課後等デイサービスの手伝いをすることになりました。
「夕方子どもと遊べる人いる?」という友人の呼びかけに応じたのです。その頃は自宅で仕事をし、自由に時間を使えていたから、夕方の数時間なら手伝えると思いました。
そこは聾学校の児童だけを預かる施設でした。下は幼稚園から、上は小学校6年生まで。
鳥「手話できんが」
友「大丈夫大丈夫。絵描ける?工作できる?お菓子作れる?」
鳥「全部できる」
友「採用。あとは子ども達と全力で遊んでおくれ」
鳥「軽っ」
友人も鳥尾巻と同じ、否、それ以上にテキトーです。
あっという間に療育プログラムの担当です。絵や工作、料理などを通して発達支援を行っていきます。最初は全然手話が分かりませんでしたが、「習うより慣れろ」精神で覚えました。子ども達は人懐こくて可愛かったです。
手話は身振りや表情で言葉を表すもの、指文字は指の形を使って50音を表すものです。
手が作り出す、文章と、文字。ここでも文字。
しかも今まで使ったことのない文字です。当然というか、必然というか、文字変態は興味津々で覚えます。
手話を使って物語が作れないか考え、声を盗まれた竜人の子が出て来る『お師匠さまは指を鳴らせない1・2』を書き上げました。(またまた宣伝)
子ども達の手話の使い方は三者三様でした。自閉症でもあったMちゃんはほとんど発話せず、手話表現ではなく主に指文字を使う子でした。彼女は施設に着くなり、鳥尾巻の背中によじ登ってくるほど懐いてくれました。
他の先生だと癇癪を起して喚き暴れるMちゃんは、鳥尾巻にべったり張り付いて離れません。
鳥尾巻、α波か何か出てます?
残念ながら施設は感染症拡大の影響と児童不足で閉鎖されてしまいましたが、近所に住んでいるので今でも街中で児童達に出会うことがあります。ソーシャルディスタンスを守りつつ、会話はもちろん手話です。
独自の文法構造を持つ手話は、種類もたくさんあり、手話事典も全部を覚えきれるものではありません。でも、いつかまた皆と話せるように、勉強は少しずつ続けています。
初めに言葉ありき。そして、文字。
ツールは違っても、手から、指先から生まれ出る文字は、誰かにメッセージや物語を伝え、コミュニケーションや世界を広げる大切な役割を担っていると思います。
文字愛好家、もとい文字変態の遍歴はまだまだ続きます。
終
えせエセ 鳥尾巻 @toriokan
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