第1話 月光の正体

第1話 月光の正体


「おい、起きろ、ついたぞ」

うるさいなあ、もうちょっと寝かせて

「死ぬのかこいつ」

いたたたたい、痛いよ。ほっぺ引っ張らないでよ

「終点だぞ」

はあ?

篝火が段々と消え、朝日が迎えに来た

見たことのない町


海洋暦6117年2月23日

初めての海外、そして人質先、魔法と商売の都市、「狭盛シャセン」へ上陸


三ヶ月間の乗船はあっという間、といってよいが

ほぼ毎日、ほんやりで、頭の中で過去の思い出が繰り返しただけ

まあ、目的が明白、明白


「君が明立武生かい、わしについていて頂戴なのだ」

「殿下、お待ちを」


港に踏んだばかりに、一人の男の子が現れた。

俺より背が低い、多分100歳が切らない子。

全然合わない、大人の帽子。

黄金の髪と、華やかな刺繡が施された、貴族の身分が一目瞭然な服。

そして、服と飾りに隠せないその「可愛いさ」。

けれど、俺の名が知ってるとはなあ


「どなた様でしょうか。」

「そういえば自己紹介まだかなあ、わしはこの「狭盛」の領主、我々の大令帝国ダーリンディゴの親王、「和王ヘワン」であるのだ」

「大変失礼いたしました。申し訳ございません。殿下のことが存じ上げなくて、何卒お許しを」

「構わん、構わん、初めて我らの帝国に来たんだろう、いろいろ知らぬのが仕方ないのだ」

「ご理解の程何よりでございます。」

「ハハハハハ、まあ、可愛いらしい女子(おなご)がきたのが、わしとしては嬉しいのだ」

「えっと、えっと、僕は、男、でございます。」

「ええええ、ごめんごめん、わしの勘違いなのだ。えっと、えっと、名前しかしらなくて」

「お気にならさず、よく勘違されるのですから」

殿下の後ろに一人のおじいさんがいて、マスターさんじゃないかなあ

「うちの殿下がご無礼のほど、明立さまにご迷惑をおかけして申し訳ございません。何卒よろしくお願いいたします。」

「なんなのだ、りっじい、わしの自己紹介よくできているんじゃないか。ただ勘違いだけなのだ。」

「殿下、やくお考えになってから話すべきでしょうかね。あと、無理にお走にならないでください、わしの体じゃ追いつかないでございますよ」

「お説教はやだ、ヤダヤダヤダ!」


殿下のほっぺが膨らんで、かわいい

やはり子供だね、偉い人でも甘えん坊の時期だね。わかる。

えっ、見惚れる場合じゃないよ


「途中ですみません、ちょっとお聞きしたいのでございますが、えっと、殿下がわたくしなんかの人質にお出迎えて、何か特殊の事情があるのではないかと」

二人の争いがやめ、一斉に俺の方に見てくる

「おお、そうだった。えっと、そう、ついてに、ついてにね、たまたま町中をパトロールしてて、なんかここら辺あんまり見られない格好の人が上陸したかなあと見かけて、迎えにくるのだ。えっと、この話はさておいて、我らの城に案内しようじゃないか」

「ご気遣いいただき、大変光栄でございます。」

めっちゃ慌てて回答してくれたんだね。多分見知らぬ相手にうまく話せないのかなあ。なんか優しいね、貴族の間の人質って、表が尊敬、実際色々やばいところがあるかもね。子供と相手にして、下手したら死ぬかもしれん、これからは謹んで行動しよう。


ちょっと後話なんだけど、「狭盛」という街は、いわゆる「貿易」と「魔法」の特区。

なぜかというと、「狭盛」は字の如く、狭い場所でありながら繁盛である街。

令帝国リンディゴにおいても数少ない貿易都市であり、そして、唯一魔法が許される都市でもある。

令帝国、魔法禁止の国、理由がわからないが、故郷の北川でありふれた魔法がこの国では使用不可となる。

しかし、特例がある、京の「雲昆ウンコン」とは離れ、皇権の管理が及ばない場所である「狭盛」、いにしえから魔法の国との商売が途絶えなく、魔法に必要な材料が揃い、魔法の国からの余所者が移住しはじめ、そして、この帝国で魔法が使える人が次第に移住し、特例として魔法の使用が許可され、今の帝国一貿易都市に至ったわけだ。

街並みは「木造の殿堂」という建築物がメインとした令帝国の固有印象に覆るような、石畳の街道と赤石の屋根の大理石建築物がほぼらしい。

往来する人々が、殿下のような西洋貴族の服を着る人がいるし、令帝国伝統の「上衣下裳」の服を着る人もいる。

獣人、エルフ、そして人類、種族の違い人が平然のように並んで歩くのが、不思議な光景だなあ。

でも、女と子供、確か少ないようだ。

確か聞いたような噂、令帝国は、「男尊女卑」の国、この狭盛もそうだった。町中の仕事、商売の人、魔法使い、全て男がやっているようだ。


「我らのお城へようこそ。疲れたんだろう、今日はゆっくり休むといいぞ」

港から徒歩15分ぐらい、高台にある、この街において一番、一目でわかる立派な石造のお城が目に衝撃を与えた。

「こんな立派なお城、見たことがないですよ」

「だろうだろう、街中を一望できるのは、やはりここが一番なのだ。これからここはおぬしの家なのだ。

「かしこまりました。」

「じゃあ、まだ明日なのだ」


まだ警戒心を保ってる中、城の仕様人に部屋まで案内された。

城の構造的には、玄関に入った途端、立派な聖堂が目に浮かぶ、そして聖堂の中央には、変な石像が立っている。

「めがみ」らしく、羽まで生えてるようだ。

俺の部屋は、聖堂のすぐ後ろにあるゲートをくぐり、そして左の廊下にある最初の部屋である。

部屋自体は決して広くないが、シングルの寝具と机だけ、一人十分使えるし、窓から町中が眺望できるし、別に豪華な部屋なんて必要なわけじゃないんだ。

「そういえば、人質って、何をすればいいんだろうか。はあああ、まあ、明日殿下に聞いておこうか。」

長旅による疲労のせいか、昼間なのにベットに飛んですぐ寝た。


起きたら、もう夜中のようだ。

外の灯りが完全に消え、静寂な夜へ突入。

「もうこんな時間か、誰も起こしてくれないのか。ちょっとお手洗いに行って二度寝しようか。」


慣れない城でお手洗いを探すのに流石に面倒。

やはりマスターに聞けばいいのに。

でも、

月光に浴びた廊下

その奥に、人影が現れた。


純白なドレスが風と共にひらりと動く

月光に映った長髪

一人の、女の子?


「あのう、どなた様でしょうか、迷子ですか」

と大声で呼びかけた。

こっちの動くに気づいたようで、あっという間に影に潜んだった。


この城、謎が多いね。


翌日 


「明立様、お目覚めになりましたか。殿下のお呼びでございます。」

「はい、すぐに駆けつけます。」


二度寝とか全くしてない。

あの人影の正体、一晩中考えた、全く検討がつかないんだ。

この城に、女の子がいて、どういうこと?

マスターでも、仕様人でも、全員、男だろう。

昨日、いや、この五ヶ月間、女の影すら見られないのに。道理で俺が女子に勘違われたんだよ。


朝食ホールまで案内され、殿下がすでに着席、そして、直接、俺に声を掛けた。


「わしの専属メイドになってくれないかなあ」

「かしこま....、えええええ」

専属メイドって、侍女ってことだろう、俺、男だぞ、いくらなんでも、メイドになるなんて、ありえないんじゃない

「大変申し訳ございません、お断らせていただきます。男ですので、メイドとしては相応しくないと」

「ええ、そんなに嫌なのか、じゃ、魔法レベルは?」

「レベル2でございます。」

「じゃ、魔道具使えるのか」

「まったく使えません」

「メイド決定なのだね。」

「えええ、そんな」

「おぬしには拒否権がないのだ。ここの人質わね、仕事をせねばならぬのだ。何にもしないとただの旅なのかよ。野宿なのか、それとも、ここでメイドやるのか、おぬし次第なのだ」

えっ、今のが、正に領主の威厳というものかなあ。

拒否したいのだが、俺今には、お金などなんにもない、野宿だと、復讐どころか、どっかで命を落とすかもしれない。

仕方ないが、しばらく殿下の条件に乗るとしよう。

ドヤ顔でいられる殿下、なんかイラッとするね。

「はい、やります、メイド、やります。」

「よろしい。とりあえず、めしを食ったすぐ、わしの部屋へくるのだ。話があるのだ」

「かしこまりました。」

朝食は肉塊のお粥と肉まんじゅうのセットだ。沙克巴爾シャックバル(つまり令帝国の主要民族)らしい料理だなあ。


「うちの殿下は大変失礼いたしました。メイドの件について拒否していただいても野宿に至ることはございません。ただもし拒否の場合、別の主様に変更しなければならないのですが、帝国の規則にかかわるのでややこしいになりかねないのですが、それと、殿下のただ一人の専属メイド先月家庭の事情で退職しました。この狭盛ではメイドがうまく募集できなく、こちらもメイドの仕事をお願いいたします。」

マスターは殿下の部屋への案内の途中、声をかけた。

事情がわかった。

つまり、専属メイドがいない故に、俺に頼むことになったわけか。

マスターも丁寧にお願いしたんだし、まあ、しばらくやるか。この国のことを知るためにちょうどいい機会だよ。


「入れ」

「お邪魔いたします。」

「昨日の夜、見たよね。」

「えっ、何のことでしょうか。」

「見たよね。」

「えっと、昨日の深夜、でしょうか」

「そうなのだが」

「まさかですが、殿下が、あの、白衣の」

「ああああああああああ!聞かないてよかったわ、あ、もう」

「殿下は女の子って、ええええええ、僕も勘違ってしまい、大変申し訳ございませんでした。」

「ああ、もう、いずれ誰かにバレると思ったら、二日しか会えない相手にね、ありえない、ありえない」

「誰にも言わないですから、お許しください」

「やだやだやだやだ、おぬしがいま、とんでもないこと知ってしまった故、その「責任」を取って、とらねばならぬのだだだだ!」

「はいいいいいい」


殿下がいやそうな顔でありながら、あの帽子を脱ぎ、

身長より長い髪が床まで垂れた。

「まあ、今更なんであるが、よろしくね、わしのメイドよ」

初めの人質、そして、メイド生活、これからだ。

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人質たるものの復讐曲~プロトロ/ザ・エリニュス・アリナ プロジェクト「トロ星」シリーズライトノベル PTRS/THE ERINYS ARINA 内嶋つまる @uchishima

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