「写囚」
低迷アクション
第1話
写真に撮られると、魂を取られると言う俗信が、かつてあった。人の生活、行動の一瞬を捉え、その姿を用紙に焼き付ける行為は、改めて言われてみれば、被写体を長方形の紙片の中に囚える。封じ込める…そのような感慨を抱くのかもしれない。だが、これが本当の事と仮定したら、どうだろう?先人の言葉には、必ずしも基盤がある。以下はこれに一つの可能性を示すモノである。
「見てくれよ。これ!こないだの○○(体験者の地元では有名な心霊スポット)で撮った奴。何か見えるだろう?」
所属する写真部の先輩が部員に見せびらかす写真には、瓦礫だらけの室内の奥に佇む、ぼやけた着物姿の女性?のような人物が写っていた。
「今年の文化祭の目玉は決まりだな。そしたら…」
得意げな先輩はPCの写真編集ソフトを開き、写真のスキャンを開始する。
「まずはレベル補正であぶり出して、トーンカーブで肉づけ、モノクロでもいいけど、色つけてもいいな」
呟きと操作の同時進行によって、女の顔が明らかになっていく。輪郭だけだったものが、解像度と共に変化し、能面のような無表情で真っ青な顔が、こちらを見据えた時…
「いっ?…」
妙な声で先輩が呻くと同時に、画面上の女の目がそれぞれ逆に動き、次は左、右と頭を動かし、最後は前、後ろと頭部を激しく蠢動し始めた。
編集ソフトにはアニメーション機能もついているが、先輩は、そんな操作は行っていない。
やがて、部員が見守るなか、無表情な女は、頭の動きを止め、そのまま画面奥から前へ、こちらに歩みを進めてくる
「出てくる…」
誰かが言った不穏な声をキッカケに、悲鳴を上げた先輩がPCの電源を勢いよく抜き、スキャナーから取り出した写真に火をつけ、屑籠に放り込む。
「う~〜」
肉が焦げる臭いと女の低い唸り声が部室内に響き渡った…(終)
「写囚」 低迷アクション @0516001a
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