夜の散歩

@shota_s

第1話

 私達は産まれた時の先天性の理由で、幼少期に手術をしなければとても残念な死に方をすると医師に診断されていたため2週間程入院していたことがある。

 これはそのの私達が経験した最悪な日々の日記である。


 1日目

 私達はその日、両親に連れられて2つ離れた兄と共に病院に向かうことになった。

 行先を両親に言われる事もなく、外食が出来ると喜ぶ兄を見ていて私は一緒に退屈していた入院させられる運命共同体に話しかけた。

「どうやら前に病院で言われてた手術の時になったみたいだね。母は不安そうにしてるけど、君はどう思う」

 眠そうにしている運命共同体である私の双子の兄弟は少し機嫌を悪くして答えてくれた。

「不安はないけど、テレビも見れないし友達の猫にもばあちゃんにも会えないからすごく嫌だけど、しょうがない。だって金的で死ぬなんて冗談じゃないでしょ。僕は寝てるから頑張って」

 他人事のように言うと本当に寝てしまった。彼が寝てる間は話し相手がいないから私は車窓から外の様子を見ようとしたがチャイルドシートのせいで見れるのは助手席の母と隣で人形と戯れる兄しかなく、五分と立たずに退屈に耐えられなくなり私も寝ることにした。


 それから時間が経ち病院に着くと私は母に抱っこされて、医師の所に案内されて手術の説明が両親にされた。その後すぐに病室へと案内されて両親が入院の準備を始めたため、私は病室を見渡してみた。

 私達と同じくらいの幼子ばかりのその病室はとても退屈な日々を想像させてくれた。私は、もう一度寝ることにした。


 それから何時間経ったのだろうか。目を覚ますと外は暗くなり、家族は皆帰ってしまっていた。ベットから自力で降りることはできないと思ったが柵に触れると私の体は柵の隙間から出られたのかなぜかベットの外にあった。興味本位で病室を出ようとすると普通に歩けている事に違和感を覚えた。

 しかしながら、退屈していた私は好奇心に抗うことなど出来ず、夜の病院を散歩し始めた。人一人いない暗い廊下は何とも不気味であったがナースステーションは明かりがついていたのでそこまで歩いてみることにした。

 到着すると、看護師達の会話が聞こえたが合コンの話と医師の不倫の話をしてるばかりで面白くなかったので、兄弟に声をかけてみた。

 「なんでずっと黙ってるの?」

 いつもなら、不思議なことがあると騒がしくなる兄弟が静かすぎるから声をかけたのだが返事は何度訪ねてもなかった。

 急に怖くなり病室まで戻ることにした。病室は暗くわかりにくかった。病室に貼られてる名前で自分の部屋を探しながら来た道を戻る。不安は増し、言い知れぬ孤独を初めて感じた。

 あと少しで部屋にたどり着くという頃に私は声をかけられた。

「ねえさびしいの。よかったらいっしょにあそんでよ」

 唐突に少女の声が私を呼んだ。何故声をかけられたか不思議である。

 しかし私にとって今はそんなことにかまってる暇はなかった。一刻も早く戻るために一言だけ

「無理」

 そういうと振り返ることもなく病室に向かった。

 

 病室に戻り、ベットに向かうと寝ている私がいた。

 その体に触れると兄弟が声をかけてきた。

「どこにいたんだ。起きたら君がいないから退屈だったんだ。夜泣きの声しかしなくて絶望してたよ」

 そこで私は幽体離脱したのだと理解して、何があったかを兄弟に話した。

 話してすぐ兄弟も幽体離脱できるようになり、私たちは交代で幽体離脱をして入院生活の退屈しのぎにすることを決めてその日は疲れたので眠ることにした。


 2日目

 起きると母が来ていた生まれて間もない弟もいるからあまり一緒にはいれないが、毎日来るから安心してと言われたが、本心は別にあると知っていたから素直には喜べない。

 私は申し訳なさそうにする母を見ながら愛想笑いをした。兄弟は出かけてるから相手をしているが来ないほうが気が楽だ。

 

 それから母は二時間ほど病室で私の世話をしてくれた後、合コンが趣味で子供嫌いだと昨日わかった私の主治医に私達のことを頼み帰っていった。


 それからほどなく兄弟がかえってきた。兄弟はとても嬉しそうにしていたので何があったのか尋ねてみた。


 すると、兄弟はこんな話をしてくれた。


 病室を出ると白い服を着たとてもかわいい五歳くらいの髪の長い女の子が声をかけてきたという。

 少女はカナコと名乗り

「ずっと入院していて家族も碌に見舞いにも来てくれず、看護師達にも無視されているから寂しくて、昨日返事をしてくれたから会いに来たの。友達になろうよ」

 と兄弟に言ったそうだ。

 兄弟は返事をしたのが自分ではないと気付いたが、可愛い女の子と仲良くなりたくて内緒にして

 「僕でよければ友達になるよ。一緒に遊ぼうよ」

 と少女に兄弟は返事をした。

 それからずっと遊んでいたが約束だから戻ってきた。


 ずっと一緒にいたが、兄弟の初めて見る嬉しそうな様子に私は一抹の不安を感じてはいたが良かったねとしか言えなかった。


 それから、私も病院を見て回ろうと歩いていた。誰にも見えないから普段仕事で接してくる時とは違う看護師や医師たちはとても面白かった。

 ふと思い、兄弟が遊んだという少女について調べてみようと思ったが、その病室には名札もなく、まだ消灯時間でもないのに明かりもついてなかった。寝てるなら悪いと思い部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ると兄弟に聞いてみた。

「本当に少女と遊んでいたの?」

 とても不思議そうに兄弟は

「遊んでたに決まってるじゃないか。君も彼女に会ってるんだから可愛いのを知ってるだろ」

 私達の記憶に相違が出たのは初めてだった。私が見たあの真っ暗の部屋から兄弟の言う少女は声をかけていたのに私が無視して帰って来たと言われて驚いた。人の気配は無かったし、あんな真っ暗な部屋に誰かいるなら気付きそうなものだ。兄弟にもう遊ばない方が良いんじゃないかと伝えてこの日は眠りについた。


 それから深夜に看護師が見廻りに来た音で目を覚ますと兄弟は出掛けていた。嫌な予感はしたが何故かとても疲れていてすぐにまた寝てしまった。


 3日目

 朝になり目を覚ますと兄弟は戻って来ていた。何処にいたかを聞くとやはり少女の所に行っていたようだ。私はもう一度詳しく少女の事を兄弟に確認する事にした。兄弟は私が何故少女の容姿が分からないのか理解出来ないようだったが答えてくれた。

「年齢は3歳くらい歳上で髪が長く肌の白い目が少し青みがかった外国人と見間違えるそうな容姿で、趣味はお手玉とおままごと、ご両親は遠くにいてずっと会えてなくて友達もいなく寂しがっていた。久しぶりに話せた兄弟を気に入りずっとずっと遊んでたいと言われているからこうしてる間も本当は遊んであげたい。僕しか彼女には話相手がいないから」

 最後の方で私が少女を無視してることへの皮肉を込めている辺り、とても固執してると感じた。

 このままでは危険だと思ったけれど、兄弟への被害がまだないので止めようにも手立てが無かった。

 私は打開策を探る為に少女の病室に再度向かうことにした。兄弟は遊びに行きたいからとごねたけれど一時間で戻ると伝えると渋々許してくれた。


 少女の病室の前に立つがやはり明かりは消えていた。しかし中から少女の笑い声だけが聞こえてくる。意を決して中に入ってみたが、中はやはり暗いままでカーテンも閉められており、そこには笑い声の主がポツンと立っているだけだった。

「遊びましょう」

 笑い声の主は私にそう言ってきた。

「兄弟にすぐ戻るように言われてるから遊べないんだ。誘ってくれてありがとう。じゃあまたね」

 そう伝えて私はすぐに少女の病室から出て兄弟の元に向かった。後ろから声がする。

「なんで遊んでくれないの。ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、私可愛いでしょ。貴方も遊んでよ」


 自分の病室に戻るまでの間、まるで真後ろに立っているかのように声は聞こえ続けた。ふり返らずにやっとの思いで病室に戻ると兄弟はひどく驚いて聞いてきた。

「何があったんだ?まるで化け物に会ったみたいだけど?」

 正直に伝えようかと思ったが、兄弟にはアレが美少女に見えている説明した所でまた機嫌を損ねるだろうと思い

「後で話すから今はそっとしといてくれ」

 それだけ伝えて出来事を整理する事にした。


 兄弟はその後直ぐに出かけてしまった。まだ大丈夫だと思い、止めなかったけれどこの時に無理にでも止めておけば良かったと後に後悔した。


 この時に私が見たものについては今でもトラウマで思い出したくもない。


 真っ暗の病室の真ん中にいたのは、少女ではなかった。人ですら無かった。幽霊とは思っていたけれど、その姿は背丈が天井に付くほどに高く、手足はまるで老婆のようにしわくちゃで骨が目立ち、笑っている顔に鼻はなく目は空洞になり闇が漂っていた。私にはとても醜い異形に見えるソレが兄弟には絶世の美少女に見える。

 この理屈のわからない現象への恐怖と未知への好奇心が私に悪魔の囁きをした。


(兄弟が助けられるギリギリまでは様子を見よう)


 絶対に間違っているとは思ったが好奇心が抑えられなかった。


 それから両親が来て色々してくれてる間も、看護師が面会がいないから愚痴を病室で言う間も兄弟は戻ってこなかった。


 夕刻の6時頃になりようやく帰ってきた兄弟に今日の出来事を聞く


「遊んでくれなかった分まで遊んでほしいと言われてたから帰りが遅くなったけど、僕は悪くないよね。今日は一緒におままごとをしたんだけど熊のぬいぐるみを落としちゃって少し怒られちゃった。でもすごく楽しかったから明日も遊ぶ約束してきたよ。でも君はもう来ないで欲しいんだって。駄目だよ。女の子をいじめちゃ」


 早口に言う兄弟はとても上機嫌だ。あの部屋に熊のぬいぐるみなんてない。一体何を持たされて落としたのだろうか。私も行きたくないから遠慮してもらえて幸いだ。


 いつもなら思っただけで伝わるのに気づかれないから兄弟に


「今後は気をつけるよ。私の分も優しくしてあげてよ」


 そう伝えると満足そうに兄弟は笑った。本当に楽しそうだ。現実を伝えるのが怖くなる。また今夜も出かけるのだろうと思いながら私は眠りについた。


 4日目


 やはり夜中抜け出して遊びに行ったようだ。寝ている兄弟はとても幸せそうだ。

 家族が見舞いに来るまでの間、兄弟は起きなかった。


 結局、兄弟は両親が帰り支度を始めた頃に起きたが家族に何も感心を持ってないようで笑うのが苦手な私は親が心配しないようにするのに苦労した。


 それから程無く、兄弟は今日も"少女"に会いに行った。感受性が強いからあの化け物に依存しているのではないかと心配になる。


 病室でどうするかを考えるも、私は幽霊を見ることは出来たが消すことも追い払うことも知らなかった為、兄弟を説得する以外に方法が思いつかなかった。


 その為には、兄弟に真実を見せるしかないが、二人とも幽体離脱をするのはリスクがあるので、誰も私達の病室に人が来ない時間を知らなければならない。


 夜起きる事に決めて、私は眠った。


 4時間ほどたったのだろうか。部屋は暗くなり、周囲は完全に眠っていた。兄弟はまだ戻って来てない。


 暗く静かな病室で一人起きるのは、何とも淋しい時間である。目の前には暗い天井しか無く、看護師の声すらしてこない。こんな退屈な時間をどれだけ過ごせば良いのかと思っていると兄弟が戻って来た。


 戻って来て早々に兄弟は眠ってしまった。とても疲れているようだ。私はそんな真夜中に出歩きたくはないが、兄弟のためと思い出かけることにした。


 あの化け物の部屋の前に行くと声をかけてみた。


「なんで出てこない?呼び寄せるくらいなら会いに来ればいいじゃないか?」


 すると化け物は少女の声で言ってきました。


「なんでそんなひどいこと言うの?私は脚が悪くてそんなに歩けないのよ。いつも遊んでくれる子はそんなひどいこと言わないわ。あなたは同じ姿なのに別人なのね」

「見分けはつかないんだね。確かに兄弟と私は違うよ。今日はもう帰るよ。それじゃ」


 この会話の後、化け物はまた叫んでいた。


 病室に戻ると兄弟は起きていた。若干、私を睨んでるように感じるが戻って何があったかお互いに話しをする事にした。


「明日は少女の所に行くのやめて休んだらどうだ?ひどく疲れてるように感じる。一日くらい会わなくても、大差ない問題だと思うから休んで回復してから会った方が相手も気を使わないで済むだろうし」

「それは出来ないよ。約束してるから。ずっとあそこで待ってるんだよ。大丈夫、すぐに寝ればどうにかなるから」


 やはり、行こうとするがどうしたものか。返す言葉を悩むうちに気を失うように兄弟は寝てしまった。


 余りにも疲れ方が私と違うから、おそらくアレが疲れさせてるのだろう。目的がわからないが、嫌な予感しかしない。もうそろそろ兄弟に本当の事を知ってもらう必要がある。明日は夜、兄弟が会いに行ったら私も行くことに決めた。


 余り時間もかけれないから、何をするか考えなくてはならない。失敗は許されない。どうしたら良いのかと思案して2時間くらい経って寝てしまった。


 5日目

 朝起きるとすでに両親が見舞いに来ていた。

 時間を確認すると10時を過ぎており長く寝ていたのだとわかった。両親が珍しく寝てるから大人しくて助かったと看護師の方と話している。確かにあまり眠らないから心配かけていて申し訳ないと思いながら眺めていた。


 まだ兄弟は寝たままだが、起きたらすぐに向かおうとするだろう。その時に病室にあまり人がいては事に及べない。他の見舞いの家族や看護師の方達が病室に来なくなるまで待つしかないのが不安だ。


 寝たふりをしながら、そんな事を考えて両親が去るのを待っていると昼過ぎになり、兄弟が目を覚ました。帰りがけの両親が起きた兄弟に気づき声をかけてくれたが、兄弟は上の空で反応してなかった。


 寝ぼけてると思われて、そのまま両親が帰る頃


「行ってくる」


 それだけを言って兄弟はまたあれの所に行ってしまった。


 今は13時頃、まだ病院は人が沢山いて賑やかだ。病室にも他の患者の家族もいる。まだ我慢するしかない。


 16時に差し掛かり、大分人が落ち着いてきた。兄弟は戻って来ないし、これから看護師の方が来る時間だ。食事も風呂も自分で出来ないのがもどかしい。


 18時になった。あの屈辱の時間が終わり部屋の電気も消された。少しだけ様子を見て外に出よう。


 そんな時に嫌な声が聞こえてきた。

 とても上機嫌な笑い声だ。

「あと、ちょっと・・・ようやく食べれる・・・食べたらアイツも食ってやる・・・・これでようやくここを出られる」

 ケラケラと笑いながらそんな事をあの化け物が言っている。


 一刻の猶予もないと思い、私はあの化け物の病室まで行った。


 病室に入ると兄弟が笑いながら誰かと話していた。

 しかし、話してる相手の姿はなくおままごとをしてるみたいなのだが何かを掴んだはずの手にも何もなかった。

「僕がお父さんでカナコちゃんがお母さん役でこのくまさんが僕たちの子供でいいんだね」

「・・ソウヨ。オトウサンハカゾクニヤサシクシナイトダメナノヨ・・・」

「僕の父も優しいよ。タバコを吸うのは辞めてほしいけどね。じゃあクマちゃんと遊んでるね」

「・・クマチャンバッカリカマッテ。ワタシハホッタラカシナノネ・・・」


 聞いてるだけでも気持ち悪かった。少女の振りをした化け物の老婆のような声も、楽しそうにしてる兄弟を声ももう一瞬たりとも聞きたくなかった。


 化け物の声がする方を見てみると昨日までは背の高いだけだった化け物の姿が変わっていた。


 まるで蜘蛛のように沢山の腕を持ち、口は大きく避け身体には大きな穴が空いていた。その穴はさながらブラックホールのようになっており、兄弟のエネルギーを少しずつ吸い込んでいるみたいだ。


 さっきの声の理由がわかった。兄弟を取り込もうとしていたんだと。ただ一度に取り込むには兄弟は悪霊には不可能だった。だからじわじわと弱らせていたのだと。


 私はまず兄弟に声をかけてみた。

「長いし過ぎだ。帰るよ」

「・・・。ご飯美味しいな。いつもありがとう」

「聞こえてないのか?」

「ハンバーグは大好物だよ。うれしいな」

「帰るぞ!」

「毎日食べたいよ」


 どうやら姿すら見えてないようだ。

 上からゲラゲラと笑う声が聞こえた。

「ムリダ。ソイツハモウワタシノトリコ。オマエノコエハトドカナイ。アキラメテカエレ」


 上機嫌に話す声が癪に障る。私は兄弟に触れて弱った分を回復させる事にした。

 触れると兄弟が見てるものを共有できた。

 まるでりかちゃんハウスのようなピンク色の部屋の中で少女と楽しそうに遊んでいる。全く呑気でだらしない顔をしている。ずっとこの幻覚を見てたんだとわかった。


「邪魔しないでよ。遊んでるの分かるでしょ」


 兄弟が話かけてきた。まだ幻覚は見てるが私は認識出来るみたいだ。ここで下手な事を言っても無駄だから一言だけ返す事にした。


「私の視覚を共有するから」


 そう言って強制的に私が見てるものや記憶を一部共有すると、兄弟はとてもガッカリした感じで私に伝えてきた。

(あれは仲良くなれないな。消そうか?)


 頭の中に直接入るように伝えられて、私は笑ってしまった。だが、化け物に悟られてはまずいので

(今日はやめよう。疲れた。私が怯えて逃げる振りするから上手く帰って来てよ)

(わかったよ。部屋で待ってて)


 私は兄弟から触れてた手を離して、化け物に向かい言った。

「なんでこんなことするんだ。かけがえのない兄弟を奪って、絶対に許さないからな!」

 それだけ言うと急いで自分の病室に戻った。


 化け物が追ってくることはなく、笑い声だけが聞こえていた。なんとも悍ましい化け物の事を考えると気持ち悪くて吐き気がした。


 それから一時間程経って、兄弟が戻って来た。

「ただいま。お腹空いたよ」

「明日までご飯は我慢だね。それより良く戻ってきたね。なんて言って来たの?」

「簡単だよ。さっき逃げてった兄弟連れて戻ってくるって言ったら、勘違いして返してくれた」

「それでどうやってあの化け物消す気なの?」

「弱った振りしてわざと食べられたらどうにかなるよ」

「後始末は誰がするの?」

「してくれるよね?」

「なるべく弱らせてよ。私が祓えるのはあくまで自分より小さいモノだけだから」


 それだけ話してお互いに疲れたから寝ることにした。


 私達は生まれつき霊が視える体質だった。ただ、霊媒体質の兄弟と違って私は触れた霊を消す事が出来た。とは言っても大した力ではなく自分より弱い霊を消してそのエネルギーを自分のものにするだけだから限度は決まっていた。


 それに引き換え兄弟は良い霊も寄ってくるから、霊媒体質なのに簡単には悪霊が手出しできないし、大抵の悪霊は周りの霊が勝手助けてくれる。


 現に今も弱った兄弟を助けるために集まってきていた。


 一日も休めば回復するだろう。


 6日目


 朝になって目を覚ますとまだ外が少し暗い。寝静まる病室で昨日の事を思い返してみた。

 これまで視た悪霊は形を成してないか、生き物の姿をしてて化け物にはなってなかった。

 何故会わなかったのだろうと考えてると朝の食事の時間になったので兄弟を起こした。


 目覚めた兄弟は勢い良く食事をするから看護師が

「いっぱい食べて偉いねー。でも良くカミカミしようね」

 と笑いながら言ってて恥ずかしくなる。

 すぐに食事を終えた兄弟が物足りなそうにしてると看護師に笑われてしまった。他人事だと思うことにした。


 久しぶりに元気そうな兄弟が見れてよかったが、お腹を空かした兄弟はとてもめんどくさい。両親が来たら何か食べ物をもらわないと、収まんないな。


「次のご飯で起こして!勝手に食べないでよ」

 私ががめついかのように言われたと思ったら本当に寝てしまった。


 11時になる頃に両親が来たので、ご飯では無いが兄弟を起こした。

「プリン食べたい」

 起きて最初に言った言葉がこれだった。母親は笑いながらプリンを買いに行き、父はあいさつはどうした?となんだか安心しながら話しかけてくれた。

 息子が何日も笑ってなきゃ不安にもなるよなっと思いながら、若干兄弟に呆れつつも感謝した。


 プリンを買って戻って来てくれたがもうすぐ昼だからと昼ご飯後まで待つように言われ、心底ガッカリした兄弟にまた両親は笑っていた。


 看護師の方が食事を持ってきてくれたのでまた勢い良く食べてると、両親と看護師がそれを見ながら楽しそうに話していた。父は若干、息子を食いしん坊と言われ恥ずかしくて赤面している。


 それを気にもせずに食べ終えるとプリンを食べたがる兄弟がまた皆を笑わせる。

「もうそろそろ、十分食べたか?」

 周りに聞かれないように兄弟に聞くと

「とりあえずは大丈夫。まだ食べたいけど」

「じゃあ、今日の夜消しに行こう」

 そう言って私は寝ることにした。


「起きろよ。寝すぎだよ」

 兄弟の声で起きるとすっかり暗くなっていた。珍しくぐっすり寝たようだ。

「私に寝すぎって言うならいつもは半日寝てる兄弟は寝すぎじゃないの?」

「それはそれ。とにかく行こうよ」

「遠足じゃないんだから。その前に弱った振りはどうする気?」

「ギュッとして抑え込んでればちょっとの間なら誤魔化せるみたいだよ」

「いつわかったの?それ」

「今日。君が寝てる時に試した」

「だよね。初めて知ったからね。昨日どうする気だったの?」

「なんとかなると思ってた」


 いつも通りだ。なんとかなるで本当になんとかなってしまうから困ってしまう。


 二人であの化け物の元に向かう途中に兄弟は昨日の状態のフリを始めて笑いそうになる。


 部屋に入ると化け物が少女のフリして声をかけて来た。

「オソカッタネ。ズットマッテタンダヨ」

「ごめんね。約束通り連れて来たんだけど、ねぼすけで全然起きなくて、ついさっき起きたんだ」

「マッテタンダカラ!キョウハイッパイアソンデネ」

「わかったよ。何して遊ぼうか?」

「カクレンボヲシマショ」

「じゃあ最初は誰が鬼やろっか?」

「ワタシニヤラセテ」

「じゃあ、隠れるから目をつぶってゆっくり10秒数えてね」

 そう言うと兄弟は私に作戦の開始を伝えた。

 化け物の腹の穴がタンスになっててそこに隠れるように仕向けてるのが分かり、私はとりあえず兄弟の指示通りベットの下に隠れてるフリをする事にした。


「ジュー・・・キュー・・・ハーチ・・・ナーナ・・・ローク・・・ゴー・・・ヨーン・・」


 茶番のカウントダウンを聞きながらついに兄弟が飛び込んだ。

 私はそれを確認した上で隠れたフリをしてると化け物が饒舌に語り出した。


「ツイニテニイレタ。コレデジユウダ。アトハアナタモトリコンデ、カラダモノットッテアゲル。ココカラアナタハデラレナイワ」

 ぬか喜びで上機嫌に話す化け物を見てると笑いそうになった。


 必死で怯えたフリをしながら出口に向かって走るふりをすると、化け物は一層喜んでいた。


「もういいよ」


 声をかけると化け物が言った。


「ジャア、ヒト思イニオマエモ食ベテヤル」


 ため息をつきながら私はもう一度声をかけた。


「もういいよ。そこにいてもつまんないだろ」

「ソウダネー。ココカラ出ラレナイノハ退屈ヨ。早ク食ベサセテ」

「勘違いすんなよ。お前に言ってる訳じゃない。私には最初から醜い化け物にしか見えてないから」

「何言ッテルノヨ。ココニハ、フタリシカイナイジャナイ」


『もう少し待っててよ。ついでに返してもらってるから』


 腹の中から声がして化け物は驚きながら私を見る。

 訳が分からないのだろう。取り込んだはずなのに生きてる兄弟の声は想像以上に面白かった。


「ダマシタナ!ナニヲシタ!ワタシヲワラウナ!」


 怒りながら私を見る化け物をもう少し遊ぼうと思ったが腹から兄弟の守護霊の姿が見えたからやめた。「すぐにわかるから黙ってなよ」

 そう私が言うと

 化け物の腹が膨らみ出した。宅配便のトラックくらい膨らんだ所で兄妹の守護霊の象が突き破り出てきた。


「お腹すいたからさっさと終わらせて」

「他に言う事無いの?」

「襲ってくるよ」

「それは知ってる」


 本当にお気楽な兄弟に少し呆れたが、私はやることを済ます事にした。


 化け物は最初に見た時のような目の無い背の高いだけの老婆の姿になっていた。しかし最初と違うのは胴体がごっそり空になってることだ。

「哀れだな」

 私は化け物に向かい声をかける

「ユル・・サ・・・ナイ・・・・ユ・・ル・サナイ・・・・ユルサ・・ナイ」

「許してほしくないから良いんだけど、脚を失った気分はどう?」

「ナ・・ン・デ・ナイ・・ワタシ・・ノ・カラダ」

「お前の表現で言うと食べた。不味いね」

 そう答えながら腕も奪うと首から上だけになった化け物は逃げようとした。


「さっさと終わらせて、さっきと寝ようよ。腹ペコだって言ってるだろ」


 兄弟の野次も聞こえるから、化け物の頭に触れる。

 化け物の記憶が流れてくるから嫌になる。


 昔、難病で入院したが親に見捨てられて治療費も払われず、なくなったのが始まりでその時の恨みで子供の霊ばかり取り込んで化け物になったとわかった。


 最初の姿から、50年以上前からずっといたと分かった。ただ、それは兄弟の会っていた少女とは全く違うおかっぱ頭に一重まぶたの少しこけしに似た顔だった。


 美少女の姿は化け物の姉の姿だった。親からの愛情を一身に受ける姉への嫉妬の念で悪霊になったとわかった。


「タスケテ。キエタクナイ。ユルシテ」


 化け物が言ってきたので私は最後に伝えることにした。

「知ったこっちゃない」


 そうして消してこの化け物との一件は終わった。

 部屋に戻る途中に兄弟が話しかけてきた。


「別に助けてもよかったんじゃない?」

「反省してないし私達を恨んでた。面倒事が嫌いなの知ってるだろ」

「まぁいいや。明日のご飯何だっけ?」

「覚えてない」


 そして部屋に戻って寝た。翌日の手術、嫌になる金玉の位置直すために尊厳を切られるなんて。


 7日目

 朝起きて朝食を食べ終えると両親が来て、手術前の最後の確認をする事になった。


 全身麻酔で眠らせて、裏を切り引っ張って適切なところまで持って来て、縫合するらしい。


 麻酔の効果で一人は寝る事になる。手術を受けるのは嫌だったから私は外に出る事にした。


 夕方になり手術の時間になると手術室の中で医師と看護師が話し出した。

「今日女子アナとの合コンあるのにこのクソガキの手術のせいで行けなくなったんだよね」

「合コン好きですね。奥さんに怒られませんか?」

「当直って言えば、ばれないよ。それより今日ディナーでもどう?」

「今日は予定あるので・・・」


 自分の命をこの医師に預けるのかと思うと悲しくなる。


 手術自体はすぐに終わり、無事に終わった。縫合後で葉っぱみたいになって10年以上のコンプレックスになるが命には変えられないとその当時は諦めたものだ。


 それから3時間ほど経ち夜の7時になり麻酔も抜ける母が付き添ってくれていた。医師に頭を下げて感謝してる姿に複雑な気持ちになる。


 本当に人の心とは怖いものだ。















 





 

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