あなたにおすすめ


 ユーザー様が購入、閲覧、お気に入り登録をした商品の傾向を調査し、「もしかしたらこれも興味があるんじゃないか?」と言える商品を提示するのが、私の仕事です。


「このユーザー様はラブコメ漫画を好んでいるみたいね……。

 じゃあ――はい、これと似たような商品を持ってきてちょうだい」


「はい!」


 小さな少女が元気な挨拶をして、背後に立ち並ぶ棚に向かっていった。

 膨大な数の商品がそこに置かれている……、ただし、サンプルなので本物の商品ではなく、それこそコミックサイズのカードである。

 持ってきてもらったそれを受け取り、私が入力――、

 その商品が、『おすすめ商品』としてユーザー様に情報が届くわけである。


「このユーザー様は服をよく購入しているわね……。

 季節的に、そうね……夏用の服をお願いするわ」


「はい!」


「次は、仕事用の工具かしら。同じ種類で、価格が低い商品と……購入した商品と併用して使える便利グッズでも探してきてちょうだい」


「はい!」


 長蛇の列が減っていっているはずなのに、視覚では分からない。

 まだまだ、少女たちは並んでいる。ユーザー様の数だけ、彼女たちは存在するのだ。


 流れ作業のように少女たちに指示を出していると、


「次は――」


「しつちょー」


 と、ひとりの少女が棚から商品を持ってきてくれた。

 ラブコメ漫画を好むユーザー様へ、おすすめとして提示する漫画たちである。


「ありがと。確認するわ……」


 購入した商品と似たシチュエーションのラブコメ……。他には、年上好きというデータがあるので、年上がヒロインのラブコメを持ってきてくれたのだろう。

 もう一つは、年の差がだいぶあるけど……まあいいでしょう。あくまでおすすめであり、ユーザー様が検索した内容から大きく外れたわけじゃない。


 しかし、最後の商品で手が止まった。


「……ちょっと」

「う」


「自覚があるのね……。これ、ラブコメじゃないわよね?」


 少女が持ってきたのは、ラブコメではなく、異能バトルものである。いやまあ、ラブコメ要素はあるとは思うけど、ちょっとだけでしょ? しかもヒロインは年下だ……、これをおすすめしたら、「今まで俺のなにを見てきたんだ」、とユーザー様に怒られてしまう。


 責めるように少女を見れば、


「だ、だって……っ」


 服をぎゅっと握り締め、泣きそうになるのをがまんしながら――



「だって面白そうだったからっ。……ユーザー様にも、教えてあげたくて……っっ」



「………………ふう」


 悪気がなかったことは伝わった。だけどこれは仕事である。求められていないことはするべきではないけれど……、でも、この厚意を無下にするのは、私にはできなかった。

 ……評判を落としてしまうかもしれない。

 もしそうなれば――――責任は私が取ればいい……それだけの話だ。


「……分かったわ。これも一緒におすすめしておく」

「っ、ほんとう……?」


「ええ。たまには、まったく違うジャンルに手を伸ばしてもらうのもありでしょ。これでドハマりして、同じジャンルを買い漁ってくれたなら――あなたの功績よね」


「ありがとしつちょー!!」


 すると、棚の方で動きがあった。

 たぶんだけど、今の一連の流れを見ていたのか、聞いていたのか……「自分の好みを押し付けても問題ないのかも?」と誤解した少女たちが、指定された商品とは違うジャンルの商品も手に取り始め――これは私のミスだった。


 ひとりを許してしまえば、他の人はダメです、とは言いづらい。


『しつちょー、見て見てー』


 数人の少女が商品を持ってやってくる……数が多いな。


 私利私欲で取ってきたものが大半なのかもしれない……。


「……はあ。もう面倒だから全部をおすすめしましょう。『この商品を買った人はこういう商品も買っています』に紛れ込んでいても分からないでしょ。データはこっちにあるんだから、多少、事実と異なっていてもユーザー様は知りようもないし――」


 少女たちから商品を受け取る。

 喜んで列の最後尾に並ぶ小さな少女たちを見ていると、もういいや、と思えてきてしまう。


 こうやって提出される商品の確認なんて、いらない手間じゃない?




 …了

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