秘境駅🚉５４字の与太話《丁》

第二話 解説(と称する与太)

　いやな、皆さん、野栗はほんまにおじみそじゃけん、秘境駅やかしよう行かんのでよ。ネットの動画だけ見て、あの駅は鉄道ファンの間でかなり有名なんでよ、誰も利用せんようなって久しいけん、駅までの道ももう獣道みたいになってしもうとるんでよ、なんて、さもさもよう知ってますみたいな顔しよるけどな。

　最近、大阪から来た鉄オタのにいちゃんがあの駅に降りて、廃屋になったよろず屋まで足延ばしてバチバチ写真撮りまくっとったのはええんやけど、帰りのダイヤを勘違いしよったみたいで、走り去る汽車を茫然と見送って、ホームに座り込んで半泣きになっとったわ。あの駅、トイレもないけん、しょうことなしに草むらの中でしよったみたいやけど、蚊やら虻やらがにいちゃんの尻めがけてぶんぶん集まってきよって、山じゅう響き渡るような悲鳴上げとったわ。

　あこで一晩はなんぼなんでもかわいそうじゃけん、ウチの朋輩がかいらしい猫に化けて夜明かし付き合うたんじょ。

　行きしなに難波の駅で、隣に座ったおばちゃんにもろた飴ちゃんがポケットに残っとって、にいちゃん、それを大事に大事になめとったわ。

　夜空は都会では絶対に拝めん銀河がくっきりで、にいちゃん、写真撮るのも忘れて見とれとったな。ついでに狸火も焚いて見せたろか思うたけど、都会の人をあまり驚かせるのもなんじゃけん、やめといたわ。

　まあ、野栗みたいに中途半端に賢い奴は、最初からしんどい場所なんか絶対に行かんのやけど、鉄オタいうんは、秘境駅で一晩過ごすはめになってナンボ、いうもんなのかもしれんな。

　ほなけんど、ウチの朋輩は学生時代、化学（バケガク）の成績がいまいちじゃったけんなあ。目が覚めて猫が狸に変わっとったら、にいちゃんどんな顔するやろか？

　なんでもええけど、今夜は雨降らいでよかったな。