幼馴染との約束〜甲子園に連れていってくれたら結婚してあげる!!!

秋田 夏

第1話

 セミの鳴き声がクソうるせぇ夏。

 俺、六歳は隣の家の縁側でスイカを食っていた。

 そしたら、この家の一人娘がドンドンドン!!!とクソうるせぇ足音を立てて走ってきてセミよりうるせぇ声で言いやがった。


『甲子園って、知ってる!?

 すっごくすっご〜くすごいところなんだよ!!!

 でも、女の子は出られないんだって

 ねぇ、おねがい私を甲子園に連れていって!!!

 そしたら結婚してあげるから!!!』

 

 なんか、必死にテレビ見てるなと思ったらこれか。

 こいつはすぐに何かに影響される。

 ちょっと前はケーキ屋さんだったし、ちょっと前は魔法少女。

 で、すぐ飽きる。

 ゆびきりげんまんもすぐ、するくせに、すぐ忘れるし。

 だいたい、腕も足も太くて真っ黒の顔した女となんで俺が結婚なんて。

 くだらねぇ、俺はスイカをむさぼるぜ。

 と思っていたら、こいつスイカを取り上げやがった。

 返して欲しかったらゆびきりげんまん?

 しゃーねぇーな、どーせすぐ忘れるだろうし


『分かったからスイカ返せ』


『絶対だからね!約束忘れちゃダメだからね!』


 

 相変わらずセミの鳴き声がクソうるせぇ夏。

 俺、十ニ歳はクソ暑いグランドのマウンドに立っていた。

 三振三つ取って、やっと涼みに行けるぜと思ったら、腕も足も太くて真っ黒の顔した女が、センターからドンドンドン!!!クソうるせぇ足音を立てて走ってきやがった。

 

『ナイスピッチ!!!

 さっすが、私を甲子園に連れて行ってくれるだけのことはあるね!!!

 結婚楽しみしてるよ!!!

 あっ、照れた照れた!!!』


 こいつにしては約束を覚えている。

 全く勘弁してほしいぜ。 

 こんな腕も足も太くて真っ黒の顔した女と結婚なんてあり得ねぇ、あり得ねぇって。

 くだらねぇ、何がヒューヒューだ。

 俺が照れてる?

 なわけねぇだろ、俺はこんなセミよりうるせぇ女に興味ねぇし。

 さっさっと忘れろよ。

 

  

 毎度のことだがセミの鳴き声がクソうるせぇ夏

 俺、十五歳はクソ暑いグランドのマウンドに立っていた。

 三振三つ取って、涼みに行ったのに、腕も足も太くて真っ黒の顔した女が、センターからドンドンドン!!!とクソうるせぇ足音を立てて走ってくることはなかった。 

 去年まではそうだったのだが、最近体の具合がちょっとだけ悪いみたいで車椅子に乗っている。

 代わりにスタンドから手を振ってくる。

 

『ナイスピッチ!』


 としか最近言わなくなった。

 腕も足も普通サイズになって顔も黒くなくなった......

 まぁあれだな、風邪ひいて痩せて調子に乗って、元気になったら倍太くなるやつだ。

 そのうちまた、セミよりうるせぇ腕も足も太くて真っ黒の顔した女に戻るだろう。

 きっと戻るはずだ、そうに決まってる...........

    


 セミが鳴かない夏の夜

 俺、十八歳はエアコンの効いた夜の病室にいた。

 腕も足も折れそうなくらい細くて白い顔をした女が小さすぎる声で言った。


『..し...あい.....がん...ばっ.....て....ね....』


 明日は甲子園予選の決勝戦だ。

 医者は奇跡だと言った。  

 宣告した余命はとっくに過ぎていると。

 だが、最近はもうほんとに体力が衰えきってきていて......

 俺は手を重ねたが、冷たい.....冷たすぎる......

 

『な..か...な...い..で』


 そんな、ことを言いやがる......

 泣いてねぇ、泣いてねぇよ、これは全部汗だ......

 夏なんだから......クソ暑い夏なんだから......

 ...............

 スイカを取り上げるくらい簡単に俺の分を使ってくれよ......

 なぁ.....なぁ......頼むよ......

 俺は静かなのが嫌いなんだよ......

 セミよりうるせぇうるせぇ声聞かせてくれよ......

 しゃべろうとしたら、汗が溢れてきやがる......

 暑過ぎなんだよこの部屋は......

 だか、俺は言わないといけない、忘れっぽいこいつに

 すぐに何かに影響されてすぐに飽きる、こいつに

 すぐにゆびきりげんまんするくせにすぐ忘れる、こいつに

 もう四年も約束を口にしないこいつに

 十二年も人をクソ暑いグランドに、クソ暑い夏に縛りつけておいて忘れたなんて言ったら許さねぇから

 俺がこれを口にするのは最初で最後だった

 

『約束......守れよ......忘れたとは言わせねぇから......』

 

 やっぱりこの部屋はクソ暑かったようで、俺にとっちゃ今も昔も世界一綺麗な女は目から大粒の汗を流した。

 俺達はその夜、最後のゆびきりげんまんをした。


 

 マーチングバンドの声援がクソうるせぇ夏

 俺、十八歳は甲子園のマウンドに立っていた。

 三振三つ取って、やっと涼みに行けるぜと思ったら、センター方向の青い青い青すぎる空から、ドンドンドン!!!と聞き慣れた心地いい足音が聞こえてきたきがした。




 その夏、甲子園を大いに沸かせた怪物左腕の左手薬指には約束の印がはめられていた。

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幼馴染との約束〜甲子園に連れていってくれたら結婚してあげる!!! 秋田 夏 @maedataro

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