第15話 異世界ポエム
「ええっ」
これのことかな。
あたしたちは、素直に渡していいものか迷った。
「キドハシさん、こちらの世界の文字を書き取り練習していたノート、なくしちゃった、って困ってたのよ」
「それなら、」
仕方ないかなあ。
北さんが、目配せしたあとそっと渡す。
「先輩の名前が書いてあるので、たぶん、これのことです」
「やっぱり、こっちに来てたんだ! ありがとう!」
でも、前半ポエムだよ。後半、文字の練習で何書いてたのかはわからないけど。
「きっと、文字の練習なんて謙遜で、奇跡を起こす弾き手として、大切なことが書いてあるんでしょうね。見つからなくて慌ててた。毎日熱心に何かしら書いていたのよ」
熱心に……
問題は、後半の異世界の文字のところなんだ。
「前半は、こちらの文字で書かれているんですけど、先輩の意外な面を知ることができる貴重な内容でした」
滝川さんが、きれいにまとめて伝えてくれた。
「そうなの。やっぱり大切なことが書いてあるのね」
確かに大切なことではある。
「後半は。この文字、私たち読めないんです。リンナさん、読んでくださると助かるんですけど」
「あら、他人のノート読むなんて……」
言いながら、ぱらぱらとめくっている。
すると。
「えっ、エドモンド?」
〈エドモンド〉。誰?
「…………」
リンナさん、無言になった。
無言のまま、読み進めていく。
あたしたちは、なんだか嫌な予感がした。
「一生懸命、こちらの文字を勉強してくれて……こっちの人たちとも心をひらいて話してくれて……とても助かっていたし、……これって……」
異世界の文字のページは、けっこうあると思うんだけど。
とてもこそばゆそうな雰囲気が、こちらにも伝わってきたのだ。
「ねえ、」
リンナさんは言った。
「書きつけを燃やして供養してあげる風習、って、こっちの世界にもある?」
了
居残り寮生、異世界集合。 倉沢トモエ @kisaragi_01
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