(二十四)

 コン君と別れ、旅館に戻ってきた私たちは各々小説を読んだり楽器を弾いたりして過ごしていた。


「私たち、そろそろ『雲』に帰った方がいいのかな」


 そう私がポツリと呟くと、悠稀君と陽菜ちゃんは手を止めて私の方を見る。


「確かにそうかもしれないな。俺の『自分の欠片』が見つかった今、『海』に居続ける必要はない。それに、陽菜の『自分の欠片』は『雲』の世界にありそうだよな。太陽の形をしているらしいし」


「そうだね。お姉さんの言うとおり、私の「自分の欠片」を探すなら『雲』の世界に戻る方がいいかも。本当は、私もお兄さんやお姉さんみたいに、『自分の欠片』が何なのか自分で気がつきたいけど」


「そのために、陽菜ちゃんの今までを考えてみるって言うのはどうかな?私、ずっと考えてたの。陽菜ちゃんはまだ十歳で、もちろん大人らしいところもたくさんあるけれどまだまだ子供であることも事実じゃない?だから、一人で『自分の欠片』について考えてみるのは少し大変すぎるような気がしたの。だから、折角私と悠稀君もいることだし、一緒に考えてお手伝いできないかなって思ったの」


「そうしたいな。お姉さんありがとう。……そうすると、もうコン君ともお別れか。寂しいな」


「特に陽菜はコンと仲良かったもんな。でもきっと大丈夫だ。俺たちが全員『自分の欠片』を見つけ出せれば、コンのことも覚えていられる。だから、一緒に探そう。俺ももちろん協力するよ」


「ありがとう、お兄さん。コン君のこともりりかちゃんのことも覚えていたいから、私も自分探し頑張る!だから、お兄さんとお姉さんと話しながら『自分の欠片』見つけたいな」


「よし。そうと決まれば最後の『海』の世界だ。楽しみつくしてから帰ろう!明日はコンにそのことを伝えよう。それで三日間遊んでから本格的に陽菜のことをじっくり考えよう。今考えても疲れちゃうだけだからな」


「「おー!」」


ここから先の一週間の出来事は、再び陽菜ちゃんの日記から引用しようと思う。


海の世界 十四日目

この二週間の間、本当にたくさんのことがありました。まずはコン君という素敵なお友達に出会えたこと。そして、アリシス様のパーティーに参加したこと。お兄さんとお姉さんが『自分のかけら』を見つけ出したこと。これらが二週間の間に行われたなんてとても信じられません。あとは私の『自分のかけら』を探すだけです。見つけられるか少し不安ですが、お兄さんもお姉さんも手伝ってくれるので、安心してあと一週間楽しもうと思います。


海の世界 十五日目

今日はコン君の住む古城に出かけました。コン君にあともう少しでお別れをしなければならないと伝えるためです。私は伝えた時、ポロポロと涙があふれました。でもコン君にも、絶対に『自分のかけら』を見つけてコン君のことを覚えていると約束したので、『自分のかけら』探しを頑張ろうと思います。古城に行く時、お姉さんが『雲』の世界でもらったレモンを使ってレモンパイを作ってくれました。前回よりもっと美味しくなっていて、ほっぺたが落っこちそうでした。コン君もお兄さんもとても美味しそうに食べていました。二つ焼いたのに、あっという間になくなってしまいました。食べ終わったあとは四人でおにごっこをしました。コン君の足が早くてすぐつかまってしまったけれど、とても楽しかったです。


海の世界 十六日目

今日は海の世界にある図書館に行きました。雲の世界にある図書館とは違って、図書館の本が全て水に浮いていて、そこから本を選ぶようになっていました。独特な図書館で、何時間いてもあきなかったです。お兄さんも読書は苦手だけどここは楽しめると言っていました。お姉さんもいろんな本をじっくりと読んでいました。たくさん読書ができて、楽しい一日でした。


海の世界 十七日目

今日は海の世界最終日です。明日からまた、雲の世界に行って私の『自分のかけら』探しを始めます。私もお兄さんやお姉さんのように自分の力で見つけ出したいと思っています。最後にコン君へ挨拶をしに行きました。コン君は悲しくならないようにずっと笑顔でいてくれたので、私も笑顔でいました。本当は泣きそうだったけれど、お兄さんの言う通り私も『自分のかけら』を見つけ出せばコン君のことを覚えていられるので寂しくありません。古城を出ても、ずっとずっと、見えなくなるまで手を振っていました。そうしてずっと手を振っていたら、ふとりりかちゃんのことが思い出されました。そのことを覚えているためにも、明日から雲の世界で『自分のかけら』探しを頑張ろうと思います。

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「雲」の世界で 花宮零 @hanamiyarei

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