第2話
「さとちゃん、車には気をつけるんよ」
「……おん」
母親の注意喚起をうんざりしながら聞き流し、
履き終わると、つま先をトントンと二回床に叩きつけ、右手にこっそりと隠した、兄の部屋の鍵をぎゅっと握りしめた。
「ほな、行ってくる」
母に
(
玄関前のだだっ広い
「あ、
数十歩歩き、ようやく見えた
「おはよう」
優しく
この
「はよう行こう、遅れる」
柚木は慧衣の手をとり、ずんずんと前へ進み出す。
もうすでに柚木は慧衣の手を
「…慧衣、さっきから何を握っとるん?」
隣り合わせに歩いている道中、柚木は急に足を止め、そう問いかけながら慧衣の右手に自身の手を重ね、固く握られた手をほどくように優しく触れる。
開かれたその手は、
「鍵? なんで鍵なんか持っとるん? これ、慧衣んとこの家の鍵ちゃうんに、どこの───」
「やめえや、なんでもええやろ」
顔を
慧衣もまた、その舌打ちを感じ取ったかのように心の中で舌打ちをした。
歩き進めたあと、二人は曲がり角で見知った顔を見つけた。
「
慧衣が相手の名前を呼ぶ。そこで、
「樹、おはよう」
それに続いて、柚木も『樹』に朝の挨拶をする。
「…え、あ……いや、は? え、いやいやなん…え───」
いつもならここでニカッと歯を見せて笑い、気さくに返事をしてくれる、同級生のひとりである
樹は見るからに
「どなしいたん、なんか変───」
柚木が顔を覗き込んだ瞬間、樹は顔を
「はぁ? どないしたん、樹。ほんま変やで…」
いつもヘラヘラしている樹に限って、何をそんなに怯えているのか。心配の声をかける慧衣とは裏腹に、柚木は自身の魅力的な三白眼で、樹に睨みを利かせていた。
まるで、樹が怯えている理由を知っているかのように───
哀愁漂う、君の横顔。 フミアキ @fumi29
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