999回の転生を
岳鳥翁@書籍化進行中
999本の薔薇の花言葉
時間に直せば、いったいどのくらいの時間が経ったのだろう。
そんな疑問を頭に過らせながら足を踏み入れたのは、街の小さな花屋だった。
こんにちはと挨拶してみると、店の奥から老婆の小さな声が返ってくる。
少しして、店の奥から顔を覗かせた老婆は、「何がご入用ですか?」と丁寧な対応をしてくれた。
「すみません、少し難しい注文になるかもしれないのですが、よろしいでしょうか?」
「珍しい花ですかな?」
老婆の疑問に首を横に振った僕。
「実は薔薇が欲しいのですが、その数がちょっと……」
俺の言葉に、へぇっ、と声を漏らす老婆は、僕の注文を受けて今度は目まで見開いていた。
やはりここでも断られるのだろうか、と不安を募らせていた僕だったが、老婆から帰ってきたのは意外にも「わかりました」という言葉だった。
思わず、目を見開く。
「いいんですか?」
「まぁ少し時間はかかるとは思います。けどそれだけの数。何か大切な約束でもあるんでしょう」
これも年寄りの役目だよ、と最後は少しお茶目にウィンクをして見せた老婆。その姿に深く頭を下げ、三日後にまたここへ取りに来ることになった。
◇
君と出会ったのは、いつの事だっただろうか。。
もう遠い時間の果て。
その時のことを、僕は今でも昨日の事の様に思い出せる。
とある平和な村。
そこで僕たちは幼馴染だった。
とあるお城でのパーティー会場。
真っ青なドレスを身に纏った君の姿は、まるで水の妖精の様に可憐で、触れれば壊れてしまうのではと思うほどに儚げだった。
とある戦場。
剣を掲げて先陣を切る君の凛々しい姿は、まるで僕たちを勝利に導く戦乙女のようだった。
とある街の中。
襤褸切れに身を包んで蹲りながら、馬車の上で手を振る君を見ていたこともあった。
かと思えば、孤児だった君を僕が引き取ったことも覚えている。
敵同士で向き合ったことも多々あった。
しかし、結局そんな人生の最後には、君と愛し合うことが出来たのだ。
「だから、きっと次も愛し合える。998回も出会えたんだ。なら、999回目もあるだろう」
今世で彼女と会えたのは短い一時ではあった。
しかし、今までがそうだったのだ。
ならば、次がない、なんてことはないだろう。
きっとまた、僕たちは同じ星の元に生まれる。
「その時は、必ず僕が見つけ出そう。だから、待っていてくれると嬉しいなぁ……なんて。君みたいな素敵な人、他の人たちがほっとくはずがないんだもの」
彼女の墓標に並べた999本の薔薇。
一般的にこの場に相応しいものではないことは重々承知している。現に、住職であろう坊主がものすごい目で僕の事を見ているのだから。
けれども、僕はどうしてもこれを送りたかったのだ。
「次の君は、いったい、どんな姿をしているのだろうね」
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『何度生まれ変わってもあなたを愛する』
999回の転生を 岳鳥翁@書籍化進行中 @nishura726
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