999回の転生を

岳鳥翁@書籍化進行中

999本の薔薇の花言葉

 時間に直せば、いったいどのくらいの時間が経ったのだろう。


 そんな疑問を頭に過らせながら足を踏み入れたのは、街の小さな花屋だった。


 こんにちはと挨拶してみると、店の奥から老婆の小さな声が返ってくる。


 少しして、店の奥から顔を覗かせた老婆は、「何がご入用ですか?」と丁寧な対応をしてくれた。


「すみません、少し難しい注文になるかもしれないのですが、よろしいでしょうか?」


「珍しい花ですかな?」


 老婆の疑問に首を横に振った僕。


「実は薔薇が欲しいのですが、その数がちょっと……」


 俺の言葉に、へぇっ、と声を漏らす老婆は、僕の注文を受けて今度は目まで見開いていた。


 やはりここでも断られるのだろうか、と不安を募らせていた僕だったが、老婆から帰ってきたのは意外にも「わかりました」という言葉だった。


 思わず、目を見開く。


「いいんですか?」


「まぁ少し時間はかかるとは思います。けどそれだけの数。何か大切な約束でもあるんでしょう」


 これも年寄りの役目だよ、と最後は少しお茶目にウィンクをして見せた老婆。その姿に深く頭を下げ、三日後にまたここへ取りに来ることになった。





 君と出会ったのは、いつの事だっただろうか。。


 もう遠い時間の果て。

 その時のことを、僕は今でも昨日の事の様に思い出せる。


 とある平和な村。

 そこで僕たちは幼馴染だった。


 とあるお城でのパーティー会場。

 真っ青なドレスを身に纏った君の姿は、まるで水の妖精の様に可憐で、触れれば壊れてしまうのではと思うほどに儚げだった。


 とある戦場。

 剣を掲げて先陣を切る君の凛々しい姿は、まるで僕たちを勝利に導く戦乙女のようだった。


 とある街の中。

 襤褸切れに身を包んで蹲りながら、馬車の上で手を振る君を見ていたこともあった。


 かと思えば、孤児だった君を僕が引き取ったことも覚えている。


 敵同士で向き合ったことも多々あった。




 しかし、結局そんな人生の最後には、君と愛し合うことが出来たのだ。


 


「だから、きっと次も愛し合える。998回も出会えたんだ。なら、999回目もあるだろう」




 今世で彼女と会えたのは短い一時ではあった。


 しかし、今までがそうだったのだ。

 ならば、次がない、なんてことはないだろう。

 きっとまた、僕たちは同じ星の元に生まれる。



「その時は、必ず僕が見つけ出そう。だから、待っていてくれると嬉しいなぁ……なんて。君みたいな素敵な人、他の人たちがほっとくはずがないんだもの」



 彼女の墓標に並べた999本の薔薇。


 一般的にこの場に相応しいものではないことは重々承知している。現に、住職であろう坊主がものすごい目で僕の事を見ているのだから。


 けれども、僕はどうしてもこれを送りたかったのだ。




「次の君は、いったい、どんな姿をしているのだろうね」



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『何度生まれ変わってもあなたを愛する』

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