エピローグ

 ひと月が過ぎた。

加奈子の顔に時折笑顔が浮かぶようになっていた。

加奈子が工場の事務処理のお手伝いを終えて夕食を両親と一緒に食べていると、つけっぱなしのテレビから臨時ニュースが流れた。

揃って目をやると、アナウンサーが記事を読み上げる。

「今日の午後五時ニ十分ころ、国会の本会議が終わって議事堂を後にしようとした現職の郷原財務大臣が車に乗ったところ、突然車が爆発炎上し大臣が火傷を負ったということです。その後救急車で搬送されましたが死亡が確認されました。もう一度繰り返し……」

「賄賂を受け取ったとかって騒いだ事件の大臣だよね」加奈子が言った。

「いやねぇ、でもまだ捜査中じゃなかった?」母親の泉(いずみ)が夫の俊二(しゅんじ)の顔を見ながら言う。

「あぁそんな事件もあったな」

父が母に視線を送りかぶりを振っているのを加奈子は目の端に捉え

「ありがとう。でも、もう大丈夫よ。私は元気よ」

父に視線を送って明るく言った。

「灰塚晃誠会は解散、会長は逮捕。野田署長逮捕の責任をとって警視総監が辞任、刑事部長が更迭。

行岡建設は役員が全員解雇されて大手の<K>建設に吸収された。従業員はそのまま。灰塚晃誠会の組員四十七名と横浜で十年前に起きた強盗殺人事件の犯人のうち三人を殺害した犯人のうえ、植村……」そこまで言って加奈子は言葉を詰まらせる。

「加奈子、良いわよ、分かってるから、もう、……」

泉が言いかけるとその言葉を遮って「植村忠人は……」と加奈子は続ける。

「植村忠人は釼崎岬から投身自殺を図った。だよね」そう言って寂し気に微笑んだ。

そして……

「私、絶対に彼の事を忘れることはないわ。だけど彼が崖から海に飛び込んだ時、光る球が海中から青空の彼方へ飛んでいくのを刑事さん方と一緒に見たの。でね、刑事さんに言われたの、植村くんは天国で両親と妹さんと幸せに暮らすんだよって、だから私にも幸せを掴んで欲しいと言いたくて、それで私にその魂を見せてくれたんじゃないかって…… 時間が経って私もそう思えるようになったの。……だから、だから私、彼以上に素敵な彼氏を探すことにしたの……」

加奈子は滲む視界の中の両親に飛び切りの笑顔を向けた。

 

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殺人者は青空の彼方へ 闇の烏龍茶 @sino19530509

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