神の導くままに

なめなめ

第1話 神の導くままに

 ここは何もかもが白い部屋。通称“神の部屋”である。よって、ここの部屋主は必然的に神となる。そして今、その神は机の上で頭を抱えていた。


「さぁて、今後の人類をどうしたものか?」


 これは、よくある人類の存亡にまつわる悩み?


「彼等が世に誕生して数百万年しばらくが経つ。となると、そろそろ考えてもいい時期かも知れないな」


 やはり神は、人類について何かの決断を下そうとしているようだ。


「新たなる“進化”を!」


 なんと! 神が悩んでいたのは人類の存亡ではなく、進化だった。しかし、何故それを思い悩む?


「けれど大丈夫なんだろうか? 今ですら人類は勝手に戦争はするし、自分達の住む惑星すらも簡単にダメにしようとしてしまう……」


 どうやら、人類がさらに望まぬ方向へ歩むのではないかという想いが進化の足枷あしかせになっているみたいだ。


「もし……万が一、彼等が進化の末に取り返しのつかない状況を生み出しでもしたら私は……私は神としての自信を確実に失くしてしまう」


 悩み続ける神。だが、そんな神に絶好のアイデアが浮かぶ。


「待てよ? ここはいっそ新しく高度な別の人類を誕生させてみるのはどうだろうか? そして、彼等により今の人類へ与える影響を利用してさらなる方向へ導かせるのはどうだろうか?」


 高度な別の人類? 導かせる?


「よし、そうと決まれば、まずは新しい人類に対する文明レベルの選定だ」


 文明レベル?


「そうだなぁ……確か今の人類のレベルがちょうど六だから、新しい人類は……三つ上のレベル九なら問題ないだろう。これくらいの差があれば、下の方は迂闊うかつに手を出せないし、逆に上の方は相手にするのがバカらしくて無闇に手を下そうともしないだろう」


 なるほど。新しい人類を優位な立場に立たせ、彼等に無用の争いを避けさせるか……いい案だ。


「これで一定の方向性が見えてきた。次に新しい人類の外見のデザインになるが……これはあまり今の人類とかけ離れた姿にしても互いに警戒や誤解を生むだけ。なので取り敢えずは、目、鼻、口、それと手足が二本づつあれば問題ないはずだ」


 多少のいい加減感はあるが、ある程度のツボは確実に押さえてあるのは感心する。


「それからもっとも大事なのは……第一接触ファーストコンタクトだな。これはまず、そこに至るための過程が重要になる」


 ほう、かなり具体的に考え始めたな?


「文明レベルに三段階の差があることを考慮すれば、出会った瞬間に下の者……今の人類側が無条件で萎縮いしゅくしかねない。よって、初っぱなからの直接的接触は避けつつ、心構えともいえる準備期間を与えるとする。例えば、前もって相手の存在を少なからず認識……無理ならば、想像だけでもさせておくことだ」


 ふむ、想像か……それなら下の立場にすれば相手ついての心構えが作りやすい。


「しかし、想像となれば単純な長距離からによる目撃では、所詮同じ陸に住んでる者同士と侮られるのがつねになるので……」


 神の目が輝く。先程までとは違い、相当のアイデアが浮かんだと見ていいようだ。


「空だ! 陸から空を見上げる形で目撃させればいい。それも今の人類が持つ思想とは、まったく違う形の乗り物を操縦しているところを時々でも目撃させれば、未知なるものに対する心構えと同時に、興味も湧かせることが可能になるというもの!」


 次々と名案を浮べる神は、これ等の案が今の人類へ進化を促すには十分なキッカケになりうると確信していく。


「最後に場所……第一接触の現場をどこにするかについてだが、なるべく偶然を装える事故に見えて、尚且つ後々にまで注目が集まりやすい環境が作れる場所を……」


 さらに様々な考えを張り巡らせる神。その様子は、さながら舞台監督のように映った。


「場所……注目が集まりやすい場所…………あそこだな!」


 決まったか? 最高の演出が出来る舞台ステージが!?


「ロズウェル……そう、ロズウェルだ。あの場所なら第一接触の現場としてもっとも最適だ!!」


 ロズウェル? 名前からして地球の地名のようだが……まぁ、神が懸命に頭を捻って決めた結果だ。認めてやらぬばこくだろうて。


 ――――それにしても今の人類を進化させるためとはいえ、わざわざ新たなる人類を誕生させてその者達へ高度な文明を“影響”という形で授けるとは……なかなかに考えたものだ。

 このやり方なら今の人類は文明は元より、自分達と違う未知なる者を受け入れて何かを学ぶという“柔軟性”をも手にすることができる。


 そして、究極はその柔軟性が今の人類による独自の進化、果ては“発展”へと繋がる訳だ。


 フフフ……神め、なかなかに良い仕事をやりおるわ♪

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