第2話 幼少期の夢

 僕はつまらない人間だ。


 僕は……


 子供の時、世界は限りなく退屈に見えた。


 何をする事もなく。


 何が出来るわけでもなく。


 ただ、何か出来る事はないかと、ずっと己の心の中に退屈を感じていた。


 それはきっと僕は心がない人間だと、そう思ってしまうほどに退屈さを感じていた。


 旅行も、風景も、遊園地も、動物園も、テーブルゲームさえも。


 何かをすることもなく、外で遊ぶわけでもない。


 僕はずっと家の中に居た。


 大人たちを見ながら、家の中を見ながら、外を眺めながら。


 人との会話にも躍動感を感じずにいるままだ。


 きっと私という人間はこうであったのだろうと。


 そう思えるほどに虚しく、退屈な毎日だった。


 でも…。


 そんなある日だ。


 やっと見つけた。


 心が揺さぶられる。


 その瞬間を、その光景を。


 そのストーリーを。






 それは長い、長い、夢のような一時。


 夢見焦がれて、失望し、撃墜されたもなおばたこうとする小鳥たちは辿り着いた先にある所。


 それは地を這う蟻たちに夢見てもしなかった場所。


 それは夢のようで、だが夢で終わりたくない切望が突き動かす願い。


 人々はこいねがわれたという名の天国エデンを。


 それはあの日以来、僕が創作世界エンターテインメントという物語の世界に取りつかれた時から、僕はずっと夢を見ていた。


 もしも、ある日突然転生をしたら。


 もしも、ある日突然美少女とのラブコメになったら。


 もしも、ある日突然異能を目覚めたら。


 もしも…もしも…もしも…もしも…。


 そんな考えが、そんな思いが数えきれないほど夢に見てきた。


 でも、現実はそう甘くない。


 転生なども起きるはずがないし、例え起きたとしても証明する手立てが無い上、自分が選ばれるなどと微塵も考えていないからだ。


 そして何より、僕は神などという者を信じていない。


 だって、そうだろう?


 仮に神と呼ばれる者が居たとして、どうして奴らが人間なんかに関与するのか?


 世界の管理というのなら、何故他に生物を管理したりしないのか?


 転生させるためだというのなら何故自分に来るのか?


 そして何故他に生物に転生をさせないのか?


 理由があるなら、神さまのミスだと言うのなら、なぜ今まで他の人の転生話を聞いたことすらないのか?


 地球には最低でも70億の人類が存在する、そんな中に果たしてどのくらいの転生者が居たのか?


 別に全部の転生者も同じ思考で自分の中のもう一つの人格きおくを隠したがる訳でもあるまい。


 その全部が戯言と切り捨てられたのか?


 もし他のみんな全てが他人で転生者はいなく、自分一人だけ異様な環境に投げ飛ばされたらどうなるかくらい、簡単に思い付く。


 秘密を分け与えられる者が居ないというのも心細いというもの。


 今までにそんな実際的な転生例が存在しなかったら、どうして自分には出会うと思える?


 仮に転生があるというのなら記憶が持たない転生に自覚などしないし、意味などが居ようはずもないだろう?


 前の人格は意識と共に無に帰したのだから、何も感じるはずがないのだ。


 それはつまり仮に神という者が存在し、且つそれを証明も出来るようなら、そもそもそんな人物が人に関わりを持とうなどと考える筈も無く。


 ならば、自分が転生するなどとは馬鹿な話だ。


 世界の管理で痕跡すら残らない程の手際なら、人類はそれを証明なども出来ない。


 それすらも現象の一つと捉えるのだろう。


 だから僕は神に転生を願ったりしない。


 それはただの自分へのだ。自己満足なだけなのだ。


 


 僕に魔法を使わせる方法って他にあるのか?


 そんな夢のような体験をするのにはどうしたらいい?


 異界の大地に踏み入れ、冒険をするのにはどうしたらいい?


 ラブコメを体験するのも、物語ストーリーをもっと実感の篭った手法で体験する方法は?


 そして、僕は考えた、全力で考えた。


 そしたら、分かったのだ。


 僕の夢を叶う方法、一番簡単なのはきっと虚構バーチャル世界だけなのであろう。


 なら、なんとしても届かせるしかないのだ。


 待つだけじゃない、自分の手で届かせるしかないのだ。


 僕に心をくれたそんな創作世界エンターテインメントを。


 今度は自分の手で作るしかなかった。

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創現のエンブリオ 朝稲 恒明 @RamiaKanami12

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