第2話 青信号

覆いかぶさった光は青色。短い波長を投げ捨て、迎えなどとうのとっくにあきらめた。


おれっちはいつのまにか青い箱のなかに閉じ込められていた。画面越しの太陽は憎たらしい程に光っている。ドンドンと画面を二回叩いたところでおれっちはあきらめ、ここからはやっぱりでられないことを知る。


これやべーわ、うける(笑)と思って友達にこの中の写真とともにラインしよーとぽっけをさぐっていたけど携帯をコンビニに置き忘れたことを思い出した。


たぶんおれっちは信号機の中の人らしい。上にいる赤色のおっさんが教えてくれた。横断歩道を歩いていく人々を見ていると、今日も働いてごくろーさんって感じ。


おれっちここにくるまえはフリーターやってた。ベンキョー嫌いだし、大学なんて行ったって意味ねーじゃんて感じでそのままフリーター。友達も大学にいく奴なんていなかった。親はやれ公務員だ正社員だうるさかったから、家を飛び出してボロアパートでシェアハウス。


あの日は確かコンビニのバイトの日だったと思う。大体おれっちは2、3個掛け持ちで生きていた。真夜中の勤務はおれっちと主婦の山中さんだけ。おれっちの女の守備範囲は結構広い方だと思うんけど、熟女の趣味はなかった。ボロアパートの同居人はおばちゃん、ビー専で山中さんで抜けるわーってこの前こぼしていたけど。んで、かわいい大学生のユリちゃんと一緒ならなーと心の中で愚痴をこぼしつつ、作業してたんだけど、なにせ前の日ずっとゲームしてたからめっちゃ眠いし、腹減ったからちょいと休憩したくて、裏に回ったわけさ。


 携帯いじりつつ、煙草をふかしてだるいわーなんて思ってたら、ふと視界に廃棄処分の山があったわけ。めっちゃ腹減ってたからさ、思わず焼きそばパンを食べて食ってたの。だって廃棄処分だよ?もう食べないんだよ?食品ロスにおれっち貢献してんじゃーん。社会貢献。社会貢献。なんて思ってたらいつの間にか視界がぐるぐる回ってこの箱の中におれっち参上。


 最初は驚いたけど、今じゃもうこの状況を受け入れてる。親不孝もんだし、社会のゴミだし。生きるのめんどいなーって思っていたからまぁ、ちょうどいいかなって。上のおっさんはいつまでもめそめそしていてうるせーって思ってたんだけど、話をしてたらめっちゃいい人なわけで、おれっちがこのなかにいるのはまぁわかる。けどさ、何でおっさんが閉じ込められてるんだろーってまぁ気の毒だよね。聞けば子供もいるらしいじゃん。


 ポケットに入っている最後の一本の煙草を吸った。こもった煙で目が痛む。地面に吸殻を落として、足で踏みつぶした。


生きるのお疲れーなんて画面越しに尻と胸がボインのねーちゃんに声をかけながら、今日も足踏みをして信号機の中の青い人になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

信号機人間 茶茶 @tya_tya00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ