第50話 ファンタジーが始まる
――二か月後。
電車を待っていると、俺のそばを通る男子高校生の話が聞こえた。
「やべぇよ。今朝、うちの近くにダンジョンができたんだけど」
「あぁ、やっぱり。お前の家の近くだよな」
「学校なんて行っている場合じゃないと思うけど、親は行けって言うし」
「最近多いよな、ダンジョン」
男子高校生の声が遠くなっていく。
他の人たちの会話にも耳を傾けると、ダンジョンだとか不安だとかそんな話ばかり聞こえてくる。
ダンジョンが増えることを願ってから、二か月が経った。
ダンジョンは、俺の望み通り増えている。
今までは、一か月に二回くらいの頻度だったのに、今では四日に一回は出現する。
ただ、それは全世界的なものではなく、日本でだけ見られる現象だった。
もしかしたら、ダンジョンの精霊の配慮なのかもしれない。
七十億人に恨まれるよりは、一億人の方がマシ的な。
電車が到着する。
朝のラッシュ時間だというに、車内はほとんど人がいなかった。
それはきっと、下りの電車であることだけが理由ではないだろう。
悠々と座り、スマホで状況を確認した。
駅に到着。
ホームに出ると、入れ替わるように多くの人が乗ってくる。
皆、荷物が多い。
人でごった返す構内を通り、外に出る。
今回は駅近のダンジョンだったから、アクセスが楽だ。
目的地に向かっていると、物々しい雰囲気に包まれる。
自衛隊だけではなく、警察も駆け付け、辺りを警戒していた。
今回、ダンジョンが出現したのは公園で、ドーム型の遊具がダンジョンの入口となっている。
幸運なことに、ダンジョンの出現を検知するシステムが正常に作動したことで、子供が迷い込むみたいな状況にはなっていないらしい。
ちなみに俺は、そのシステムの詳しいところは知らないが、ダンジョンが出現するときの特殊な磁場がうんぬんかんぬんという話だ。
受付に向かう。
ギルド職員の顔が青い。
ただ、俺が「すみません」と声をかけると、明るい顔で答えた。
「宿須さん! お待ちしておりました!」
職員は手早く書類を準備する。
俺が来るのを待っていたかのように。
どこかで見たことがある顔だと思ったら、前回のダンジョンも彼が受付だった気がする。
「今日もよろしくお願いします!」
「はい」
俺は必要事項を記入して、書類を彼に返す。
「頑張ってください!」と背中を押されながら、アイテム車両へ向かった。
(あの書類への記入、いちいち面倒だな)
トップランカーの権限で顔パスにできないだろうか。
ダンジョンの増加に伴い、二週間の待機ルールを条件付きで三日に変えることができた。
だから手続き関係も、トップ会議で議題に出せば何とかなるかもしれない。
そんなことを考えながら、装備を整え、ダンジョンの入口へと向かう。
ドーム型の遊具の入口からダンジョンの空気が流れ出ている気がした。
あくまでも、そんな気がしているだけだが。
屈んで中を確認しようとしたら、「出陣式までお待ちください!」とギルドの職員に言われた。
しかし、俺が彼の目を見て微笑むと、彼は「あっ」と声を上げる。
「失礼しました。宿須さんでしたか。一人で大丈夫ですか?」
「いえ、もうすぐ仲間が来ると思います」
「竜二! お待たせ!」
そのとき、ネムもやってきた。
いつもの地雷系ゴスロリファッション。
ただ、ゴスロリの衣装に関しては、少し変わったらしい。
その違いがわからないので、余計なことは言わないようにしているが。
「大丈夫。俺も今、来たところ」
「お気をつけて」
「ありがとうございます」
俺たちは軽く会釈して、ダンジョンに足を踏み入れる。
目の前に荒れた大地が広がっていた。
今回は荒野タイプのダンジョンみたいだ。
自分の装備を確認する。
ボロボロだった黒衣は厚みを取り戻し、ヨレヨレだった三角帽子は、泡立てた生クリームみたいにツンと立つ。
願えば、ドラゴンの手を模した硬質な黒い杖が現れ、願えば、靴が金色に輝いた。
隣を見ると、可愛い
「……それじゃあ、行きますか」
「うん!」
準備完了。
今日もまた、俺のファンタジーが始まる!
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ここまでお読みいただきありがとうございます!
この回を持ちまして、こちらの作品は完結となります。
この先の展開については、構想が無いわけではないのですが、今のところ書く予定はありません。
しかし、この作品が日の目を浴びるようなことがあれば、書きたいと思うので、良かったら、★評価などで応援していただけると嬉しいです!
改めてになりますが、最後までお読みいただきありがとうございます。
また、過去作も含めて読んでくださった方は本当にありがとうございます!
私の他の作品を見かけた際には、ぜひ読んでみてください!
社会に裏切られた俺、冒険者で成り上がる 三口三大 @mi_gu_chi
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