第11話 ラストライブ

 ライブの日は来年の「3月1日」

 そう、卒業式と同じ日だ。


 体育館で粛々とはじまった卒業式。

 校長が話をしようとした瞬間、

「4人組」が壇上に登り校長からマイクを奪い取り

「え〜本日4時より、中央区のライブハウスで、俺達ザ・青春バンドの解散ライブをします!皆も卒業記念に集まってくれよな!以上!」と壇上を降りる。

「クォら〜!最後の最後に何する!」と新田が走ってくる!しかし、その顔はほころんでいて、


「今日は卒業式だ、許してやる」と皆の肩をポンポンと叩いて戻っていった。

 卒業式も難なく終わり、校門に4人組が集まる。

「行こうぜ、本当の卒業式へ!」


 そこに他校の高校生が集まる。

「いよいよだな!学校中のみんなを呼んでおいてやったぜ!」

 今まで、何度も喧嘩をした喧嘩仲間の連中だ。

 すまなかったなとねぎらい、学校を後にした。


 そして、本番ー。

 ホールは満員、外にまで溢れていた。

 流石は前に取材に来たテレビの力である。

 さらに、街でお世話になっていた大人達も、解散ライブなら…と駆けつけてくれていた。


 まだ、ライブ前だと言うのにコールの声が響く。

 円陣を組み、「ザ・青春バンド!行くぞー!」気合を入れ、ステージへ…大きな歓声とスポットライトを一身に浴びた。


 これが、俺達最後の青春なんだ…


 1、2、1.2.3.4.!浩二の聞き慣れたスティックの音が鳴る!


 一曲目が始まった。

 爆音が鳴り響くと観客は狂喜乱舞、演奏が聞こえてるのか?と思う程の歓声だ!

 飛び散り、流れる汗、客もメンバーもさらに熱気をあげてくる!


 ハードなナンバーを数曲の後、バラードへ

「天国への階段」。英語だから、何を言っているのかわからないが、知っているのだろう、壮年の人達が涙を流している。


 ミドルテンポナンバーを数曲、

 いよいよ、ラストの曲になった。


 本当ならば「胸いっぱいの愛を」のはずが


 涼介がマイクを掴み

「ここで、俺達が初めて覚えた曲をやります。ハードロックじゃないけど、聴いてださい。」


 涼介が言い終わるかどうかのタイミングで透のギターがなった、振り返ると透がウィンクする。

 それに合わせるかのように、ドラムとベースが鳴り響く…。


「ペーパーバックライター」。ビートルズの曲。

 今までの事を思い出した。バンドを組んだ日、トラックに乗り込んで死にそうになった日、初めて楽器を持った頃などを思いだす…。


 この曲は打ち合わせをしてなかったけど、みんな、わかってくれてたんだな…。

「ありがとうー!」

 みんなでお辞儀をし、ステージを降りる。


 鳴り止まない歓声と拍手。

「アンコール!」と響いた。

 アンコール、そんな曲は持ってないけど、

「アレしかないな!」

「やるぞ!」


 再び、ステージに上がる。

 異常ともいえるぐらいの湧き上がる歓声。

 涼介は「あの写真」を思いだし、

 親父!俺達は同じ青春を味わっている!

 バンドって、こんなに素晴らしい!

 いい青春時代だったよ!


「聴いてくれよな! Rock And Roll !」

「「「「ウォー!」」」」


 割れんばかりの歓声が鳴り響く!

 中には肩ぐるまをして、手を振ってくれる人がいる。

 客の汗がライトの熱気のせいで水蒸気となりホール全体が霞むかのようだ。

 透のギターがうねり出し、浩二と雅也リズム隊がタイトなビートで空間を響かせる!

 そして…

「…ロンリ、ロンリ、ロンリ、ロンリータイム!」


 涼介は喉を振り絞りきった。

 全ての曲が終わった…全力でやりきった…満足感と疲労感を感じながら、「ザ・青春バンド」は解散した。









「なかなか濃い青春ですなぁ〜」

「他の人達、それぞれに、それぞれの青春はあるもんですよ、僕たちは、たまたまバンドだっただけで」

「それで、皆さんは今はなにを?」

「皆、実家の家業を継いでます。」

 ガラッと、店の扉が開く音

「いらっしゃい!おぉ、浩二!それに響子ちゃ〜ん!」

「もう、ちゃんって年じゃないでしょ!」

「それでも、俺の中では響子ちゃんは響子ちゃんだよ〜!」

「お〜、この人達ですか、さっき話していた人って!」

 とっさに響子が雅也の胸ぐらを掴みながら

「また、変な事言ってんじゃないでしょーね?」

「昔の話をしてただけだよ〜響子ちゃ〜ん」

 ギブ、ギブと手を叩く雅也を見て、ようやく響子は手を離す。

「それよりも、餃子とビールね!」バンバンとテーブルを叩きながら響子が注文する。

「はいよ!」

 お客全員で話をしていると電話が鳴り、「はい!篠崎中華料理店!」

「おー!了解!」

「涼介か?」浩二が、当たり前のように聞く。

「おう!今度の休みの日にやろうぜって!」

 40代のサラリーマンが聞いた。

「何をするんですか?」

「もちろん、ザ・青春バンドですよ!」

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ザ・青春バンド! モカ☆まった~り @Moka_Mattarli

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