第10話 また、明日!

「いい!ライブハウスで30人集めよう思ったら、倍の60人集めるつもりで活動しなきゃダメたからね!」

 容赦なしの響子の檄が飛ぶ!



 叱られているわけではないのだが、全員、正座している。「…はい…スミマセン。」

 まずは3曲仕上げる事、「ハモる」は今後の課題とした。


「これからは、路上ライブをする前に、ビラ配りをするわよ!」とやけに分厚いビラを机にドンっと置いた。

「これ…何枚あるんスか?」

「1000枚よ!」皆の顔が引きつる…



「それと、これからはバイトもしてもらうから!」

「バイトは禁止なんじゃ…?」

「先生に許可は取ったわ!ライブハウスに出るって、お金がかかるんだからね!」

「何でさ?」

「ライブハウスに出るって事は、チケットを売らなきゃダメなの。売れ残りは自腹って事ね。その時の為にも、保険でバイトしてもらうからね!」


 そうか、そういうシステムなんだ。

 今までが路上ライブだったから、気づかなかった。

 ライブハウスは商売なんだ…。

「これから、もっときつくなるけど頑張って♡」

「響子ちゃ〜ん!」雅也が叫んだ。


 部室で練習して、路上ではビラ配り。

 ライブを終えて、バイト、家に帰ってからは自主練。

 ビラは知ってる人に、店においてもらえるように、頼み込んだ。キャバクラのお姉さんには、同伴前に寄ってくれと頼み込んだ。



 そこは、今までの行いが物を言うもので、皆が協力的で1000枚は、あっという間に捌けた。ほっと一安心していると、追加で1000枚、響子が持ってきた。…鬼だ。


 クリスマスイヴがやってきた。ライブ当日。

 モテない4人組(透は女子に誘われまくっていたが)には関係ない。街には楽しそうなカップルが溢れかえっている。


 ライブハウスには10組位のバンドがいて

 ザ・青春バンドは早い目の出番。

 前に出番が前のバンドが盛り上がっていた舞台裏で


「お、落ち着けよ。」涼介。

「お、お前が1番緊張してんじゃねーか?」雅也。

「てっ、手が、震える」透。

「………」浩二。

 出番がやって来た!勢いよく出ていく!

「あれ?」

 お客さんの数が少ない。10人も来ていない。

 あんなに、ビラ配ったのに?何で?


 そう気を取られていると

 1…2…1.2.3.4

 透のスティックの音がした。

 演奏は無事出来たんだけど、お客さんが少ない所で歌うのはこんなに張り合いのないことか…


 落ち込んでいると、新井と響子がやってきて…

「良かったよ!」声をかける。

「なんだか、文化祭よりもヘコむわ〜」

「気持ちはわかる」新井が言う。

「ビラ配り、頑張ったのにな〜」

「また明日からから、頑張ればいいじゃない!」



 皆、黙りながら涼介の家に集まった。

「う〜ん、やっぱりビラの配り方に工夫をしなきゃ、ダメなのかな〜」

「話題性を持たせないといけないと思う。」

「演奏の腕もあげないとな〜」


 話し込んでいるうちに、沸々とヤル気が出て来た!

「よ〜し、食え食え、食わんと力が出んからな!」

 涼介の親父が寿司を買ってきた!

「おぉ〜!いただきます!」






「せっかく、がんばってビラ配りしたのに、世の中は世知辛い…」

「あの時は、世間を恨みましたね〜まっ、今となっては、大人達の気持ちがわかりますけどね」

「その後はどうしたんです?」

「悪ガキ4人組の本領発揮と言いますか…」






 部室にて。


 全員、同じ事を考えたんだろう…

 キレイに洗濯・アイロンをかけた学ランは第一ボタンまで、閉じている。髪は刈り上げ、7・3分け、黒縁メガネと、いわゆる「優等生スタイル」。をしてきて、

 皆がミンナ「なんだ、お前の格好?」

「うっせい、お前もおんなじ格好だろうが!」と

もみあってると、扉がガタンとなる音がした。


「お前ら…誰?」新井である。

「あっ、先生、俺らっすよ!俺ら!」

「どうしたんだ、急に改心するわけなかろーが!」



「これで、ビラ配り、路上ライブするんすよ。」

「話題になるっしよ?」

「確かに、なるが…絡まれたらどーすんだ?」

「もちろん、返り討ちっすよ!それで、俺達の協力者にするッス!」

「性根は、変わってないってか…」



「ところで先生!ハモるってなんスか?」

 練習を繰り返し、バイトの量も増やした。

 路上ライブでは、狙い通り、人目をひき、真面目な格好の高校生が、ハードロックをやると言うことで集まる人も増えてきた。


 俺たちは高校3年生になった。

 進路を決めなくてはならなかったが、大体の奴は、家業を継ぐ訳だけど、浩二だけは、不動産を継ぐ訳で、どうしても、大学に行って法律を学ばなければならないと言う。


 練習量が減る。当然、路上ライブの回数も減る。

  次第にやらなくなった。


 優等生スタイルは浩二以外は誰もやらなくなったし、音楽室に集まる回数も減った。

 そんな時に、声を上げたのが「響子」である。



「アンタ達、何イジケてんの?」

「浩二がいないんじゃな〜」

「アンタ達、ばっかじゃないの?」

「なんだと!」

「お兄ちゃんはね、家で毎日、練習してんの!大学に合格したら、またやるんだ!って言ってるの!わからないの?何年親友してんの?」

「ハッ!」と、気がついた3人は、それぞれの楽器を手にした。



「テンポ、どうする?」

「メトロノームあるじゃん?それでしょーぜ」

「ギターの音、小さくすりゃ聞こえるぜ」

「よし、それでやろーか」

 音楽室の真ん中でメトロノームを中心に円陣を組むように座って練習を始めた。


 路上ライブも再開した。

 ドラムがいない状態では、楽器は弾けても迫力がない。

「ハーモニーだけでやらない?」と提案してきたのは、透だった。

「ライブハウスのおっちゃんに言われたろ?もっと、ハモれって。いい練習にもなるし、ついてきてくれたお客さんに意見も聞けると思うんだよね?」

 それで、「ハーモニーだけの路上ライブ」が始まった。

 これが、意外とウケて、テレビまでが来てしまった…。


 そして、お客さんが増えて…

 しかし、そう上手くも行かない。

 人ってスグに飽きる。

 いっぱいだったお客さんも減りだしていた。


 客が場所を離れようとすると、ハーモニー楽団とはかけ離れたロック調のメロディーを急にベースソロで弾いたり、ギターソロを弾いて、足止めをした。

 ライブ終わりには、他の路上ライブに飛び込みゲストをしたり、

 すすきの繁華街や札幌駅前で拡声器で宣伝したりもした。さすがにこれは、警察に注意された。


 だが、この行為が話題を呼び、またテレビに変な奴がいるぞと紹介されてしまった。

 そして、浩二が無事、大学に合格し、また4人組で活動出来る!そんな時に涼介が言った。


「なぁ、解散ライブしないか?」









「どういう事ですか?せっかくメンバーが揃ったと言うのに!」40代のサラリーマンのお客は酒がまわってきたのだろう、声が大きくなってきた。

「お客さん、飲み過ぎッスよ!ほら、水水!」

 30代のサラリーマンが「それで?それで?」とワクワクしながら店主に聞く。

「ちゃんと理由があったんですよ」

と店主がタバコに火をつけながら、続きを話す。

紫煙がゆっくりと登っていった。








 涼介が解散と言ったのには、理由があった。

 そもそも、ザ・青春バンドと名前をつけたのは、俺達の青春時代を忘れられない時間にしたかったから。

 高校を卒業したら、それぞれの道があるから、今までのように毎日は会えないだろう。という話で、これには、メンバー全員、納得せざるを得なかった。

「じゃあ、解散ライブはどこでする?」雅也が言った。

「札幌に1番デカいライブハウスがあるんだ。」

「もちろん、わかってるよな?」目配せをする涼介。

「おう!」

「ちょっと、ちょっと、私にも教えてよ!」

「ワンマンライブだ!」

「キャパは?」

「450人だ!」

 途方もない数字である。が、響子は何も言わない。

「そうと決まれば、気合居れねーとな!」

「明日からガンガン行こうぜ!」

「オウ、また明日!」

 と、それぞれが散った。

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