第9話 遠雷の唄

 旧盆の季節もとっくにすぎて、10月になった。

 10月は、台風が多い。

 今年は風を呼ぶデイゴが咲いたから、吹き荒れることだろう。


 ざ、ざぁー……


 波の打ちつける砂浜に座り込み、三線をかまえる。

 脳裏に刻まれた音を義甲ゆびではじくたび、高揚感に満たされる。


 なぁ美波みなみ

 お前の三線で、お前のつくった曲を弾いてるんだ。

 こんなこと言うの、柄じゃないけど。

 まるで、お前を抱きしめているような気分になるんだよ。


 一度は終わってしまった恋。

 そうかもしれないな。

 けど、諦めの悪い俺に見つかってしまったのが運のつき。

 お前が言葉にできなくてしまいこんでしまったおもいに、俺は、ことばを返すよ。


 なぁ美波。

 お前の音色は、子守唄みたいにやさしかったな。


 なぁ美波。

 俺の音色はどうだ?

 お前みたいにやさしい音色じゃないだろ。

 お前を、お前だけを想ってほとばしる感情が、おだやかなものであるはずがないだろ。


 これはそう。

 嵐の空に轟く雷鳴のように。


 ゴロゴロ……


 水平線の彼方で、厚い雲が渦巻いている。

 遠くでこだまする雷のように、俺はいつまでも、夏が終わったとしても、お前への想いを叫び続ける。


「──『遠雷えんらいの唄』」


 磯の香る潮風を吸い込み、俺は唄う。


 なぁ美波。

 愛してる。

 来世で、待ってろ。



【終】

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遠雷の唄 はーこ @haco0630

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