エピローグ

――ちゃんは――くんをよめにしたい!


 あれからいくつもの季節が流れた。



 楽しい事も、悲しい事も、嬉しいことも、寂しいこともいっぱいあった。

 もちろん、喧嘩もたくさんした。

 何度も仲直りをしては絆が深まった。


 人は歩み、変わり続ける。

 事実、色んなものが変わっていった。


 だけど変わらず、晶はあたしの隣にいる。


 思い出を積み重ねていくうちに、あたし達は色んな人と交わり支えられているというのを実感した。

 きっとこれからもそうだろう。



 パンッパンッ!



 その事に感謝して神棚に手を合わせる。


「みやこちゃん、それもいいけど運び込み手伝ってよ」

「あはは、ごめんごめん」


 忙しなく部屋にダンボールを運び込む晶に、申し訳無さそうに答える。


「あきら、背が伸びたよね」

「いつの話をしてるの?」


 思い出にある晶はあたしより背が小さかったのに、いつの間にかあたしよりほんの少しだけ高くなったのだ。

 歳は重ねたけど、可愛らしい顔は変わっていない。


「ほら、早く荷解きしないとお昼ご飯作れないよ」

「それは大変!」


 晶ご飯が作れないというのは由々しき問題だ。

 家庭内不和の原因になりかねない。


 そう、あたし達は引越しの荷物を運び込んでいたのだ。


 憧れの新築一戸建て!


 キッチン周りに関してはかなり拘ったので、晶はご満悦。

 ちなみに、あの日ウカパパさんに貰った小刀は、我が家の包丁として第二の刃生を送っている。


 あたし達の歳20代半ば過ぎで少々無理はしたけど、そこはそれ。


『姐さん、家を建てるんですかい?!』

『お前ら! 調停者様が邸宅を御所望だぞ!』

『巫女様! ぜひ我らに建てさせてください! 恩を……恩を返させてくださいっ!!』

『祭りだ、建築祭りだーーーっ!!』


『『『『うぉぉぉおおおぉぉおおおんっ!!』』』』


「待って、家だから! 普通のだから! 城の設計図持ってこないで! ウカちゃんも参加してないで止めて?! 庭に世界樹なんていらないから!!」


 というコネ的なものを存分に使わせてもらったので、普通に建てるより安く仕上がったのだ。


 …………建てるまでが色々大変だったけど。


「み、みやこちゃん、遠い目してどうしたの?」

「いやぁ、建てるのも相談する相手を選んだほうがいいというか、あの人達は変わらないというか……」

「ああね……」


 あの時の一件以来、どうもウカちゃん達に色々と頼られるようになったのだ。

 そしていつの間にやら『武神の調停者』とか『邪神調伏の巫女』とか『たゆたいまつろわぬ鬼神を鎮めるもの』なんて呼ばれるようになっているらしい。

 その時どきで、食べたい物とかを呟いていただけなのに、どうしてそうなったのか!

 意図せぬ信頼感が勝手に出来上がって戸惑っちゃってるんだよね。


 ちょっと荒んだりもするけれど、いつも癒してくれるのは晶だった。


「…………」

「み、みやこちゃん、まさか!」

「久々にあっちの晶・・・・・も見たいなぁって」

「待って、ちょっと待って!」


 晶に向かって手を合わせながらある・・事を念じると、ポンッと星がはじける様に光って姿を変える。


「いやぁ、そっちはあんまり変わらないね」

「みやこちゃん……」


 ジト目でにらみ付けるのは、少しばかり小さくなった晶。

 腰まで伸びた長い髪。

 立てばつむじが見下ろせる小柄な体躯。

 幼さが抜けて、あの時より綺麗になった顔。

 着ている服はぶかぶかだ。


 すなわち、女の子の晶だった。


「眼福、眼福」

「もう、みやこちゃん、あの子・・・への情操教育にも悪いから控えてよ」

「あはは、たまにはいいじゃん」


 後遺症か何なのか。それとも他の何なのか。

 ともかく、あたしが願って拝むと晶は女の子になってしまう体質になってしまったのだ。

 本人不服そうだけど、あたしとしてはこれもアリだと思うんだよね。


「そういや後で母さん達が4人お祝いに来るって連絡あったよ」

「あ、そうなんだうちの両親におば……お義母さんたちもくるの?」

「まぁ、あの子・・・に会いたいってのもあるんじゃない?」

「そっか……あ、じゃあ今晩はお寿司取ろう! あの子・・・も喜ぶし」

「そういやあの子・・・どこ行ったんだろう?」

「……すんすん。隣からいい匂いがしてくる。おとなりさんのお昼なのかな?」

「みやこちゃん……」




  ◇  ◇  ◇  ◇




 きょうから、あたらしいおうちで暮らすらしい。


 いままでお庭とかなかったから、すっごくうれしい!


 お母さんも、お庭のはたけでお野菜育てられるってよろこんでる。



 ジャッジャッ、ジュゥゥウゥウッ!



 お庭で遊んでいると、となりのおうちから、いいにおいがただよってきた。


 なんだろう?


 ひょい、と塀から覗いてみれば、お隣さん一家が、お庭でやきそばを焼いていた。


 てっぱんって言うんだっけ?


 おそとでごはんを作れるやつだ。


 焼いているのはあたしと同じくらいのおとこのこ。


 お父さんとお母さんに教えてもらいながら、いっしょうけんめい焼いている。


「お、上手いぞ上手いぞ。これなら今年のお祭りで一緒に焼けるかもな」


「あらあら、私より上手かもね。負けてられないわ」


「んっしょ、んっしょ」



 すごい。


 あたしのお父さんみたい。


 あたしのほんのうに訴えかける香ばしい匂いがたまらない。



 ぐきゅうぅううぅ。



 だからあたしのおなかが鳴るのもしょうがない。


「あら、可愛らしい音色ね」


「お隣さん? もしかして今日引っ越してきたのかな?」


「う、うん」


 さすがにおなかの音を聞かれるのは恥ずかしい。


 だけど、あたしはやきそばから目がはなせない。


 おとこのこと目があった。


「……たべる?」


「たべる!」


 一も二もなくうなずいてしまった。


 おとなの人たちもわらってる。


 うぅぅ、はずかしい。


 塀を乗りこえおとなりさんのお庭にはいる。


 スカートがめくれてぱんつが見えてしまった。


 だけど、今はやきそばの方がじゅうようだ!


「ど、どうぞ」


「ありがと!」


 なぜだかお顔をまっ赤にしたおとこのこからやきそばをもらう。


「あむ」


 最近つかい方をおぼえたお箸で、やきそばを食べる。


「っ!」


 しょうげきだった。


 お父さんがたまにもう1人のお母さんに変わるのを見ちゃったときくらいの驚きだった。


 初めてまっちゃを飲んだときにひってきするかもしれない。



 のちにあたしは知ることになる。


 世の中にはソースを使わない、塩やきそばなるものがあることを。



「お、おいしくなかった?」


 おとこのこが自信なさそうに聞いてくる。


 ぶんぶんぶん、とすごくいっぱいたくさん頭を横に振る。


 とんでもない!


 これはやきそばのかくめいだ!


「あたしは、くすぞのみか! あなたのおなまえは?」


「み、みのやまりん」


 このしょうげきはきっと、うんめいにちがいない。


 うんめいの人にはつげることばがあるって、おかあさんが言ってた。




「りんくん、あたしのおよめさんになって!」



※※※※※※


これにて完結です。

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都子ちゃんは晶君を嫁にしたい~女子力高い幼馴染が本当の女の子になっちゃった件~ 雲雀湯@てんびんアニメ化企画進行中 @hibariyu

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