水の流れ
小鳥遊
水の流れ
あなたは人生に絶望していた。
幼い頃から自分には悪い事ばかりがおきる。
そう言って涙を流しながら、私に過去を話した。だから私はあなたの過去を見に行く事にした。
小学生のあなたは笑顔で大好きな犬を連れて走っていた。でもあなたが石につまずいて転んだ拍子に犬の綱が手から離れ、犬がそのまま走って行ってしまう。本来ならこの後に犬が車に轢かれて死んでしまうのだが、私が犬を捕まえてあなたの所へ犬を連れて行った。あなたは笑顔で私にお礼を言い去っていった。
中学生のあなたはスケートボードで遊んでいた。スピードをつけて怖いものなしで滑って行くあなたは、とても気持ち良さそうだった。
しかし、この先の交差点の所であなたは青い車にはねられて、これから一生足を引きずる生活になってしまう。私はあなたに声をかけて道を訪ね、その青い車が通り過ぎるのを待って「車には気をつけてね」と言いお礼を言って去った。
高校生のあなたには、あなたから聞いた万引の疑い事件はおこらなかった。
たぶん過去が変わってしまったので、あなたはその後にいじめを受ける事もなく引きこもりにもならずに、笑顔で野球部の部活動にはげんでいた。女子からも人気が出て、あなたはとても嬉しそうだった。
現在のあなたを見に行った。
あなたは大学で学んだ設計の技術を活かし、設計事務所で働いていた。重要な仕事を任され、とても生き生きとして仕事をしていた。
両親が火事で亡くなる事もなく、プライベートのあなたにはとても可愛い女性が隣にいて、一緒に食事をして楽しそうに笑っていた。
過去を変えた事で、私とあなたの接点は何も無くなってしまった。あなたと過ごした苦しいけれど少し穏やかだった世界はどこにもなく、私は一人になった。
でもこれでいい。寂しいけれど、元の世界では見る事が出来なかったあなたの笑顔がこんなにも見られて、私は満足なのだ。
おわり
水の流れ 小鳥遊 @ritsu25
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます