S神さんとM田くん ~弱小Web小説部の日常~

とろり。

とある放課後



「こぉおんのぉ、ぶたああああああっっ!」

 部室に入って開口一番でS神さんに罵られる俺だが、俺は別に豚じゃない。勘違いする人もいると思うから一応言っておく。

 太っているわけでもなく肌の色がピンクでもない。むしろやせてる方だし、肌の色はオレンジ色を白色で混ぜたような普通の肌色。普通の男子高校生である俺はS神さんの豚という表現には毎度毎度困ってしまう。

 ときにはハゲ呼ばわりされる。別に髪の毛が薄いわけではない。むしろ濃い。それなのにS神さんは俺をハゲと言う。

「遅かったじゃない? ハゲ」

 ほらね? S神さんは俺のことハゲている豚に見えているのだろうか。

「遅刻よ! 遅刻! ○にかわってお仕置きが必要ね! そうよねぇ!?」

 ○にかわってお仕置きするのは美少女戦士でなければならない。S神さん、いつから美少女戦士になったのですか? 美少女ではあるけど。

「デコピン千本ノックよ!」

「ふひっ!」

 おっとつい驚いてしまったぜ。えっ? 豚みたい? ひどいね君も。俺は顔偏差値は中の中だと思ってる。そんな俺が豚だなんて――

「さぁいくわよ!」

 ダダダダダダダダダダっ!

 ダダダダダダダダダダっ! ×50。

 1000コンボ!!!

「ぶ、ぶひっ」

「正体を現したわね! このぶた悪魔っ! 追加のデコピン千本ノック!」

 ダダダダダダダダダダっ! ×100。

 2000コンボ!!!

「や、やめてください!」

「ついにぶた悪魔、最終形態になったわね! くらえぇ! ひぃぃっさぁつっ! デコピン1万本ノックぅぅ!」

「や、やめろおおおおおお!」

 つい叫んでしまった。失敬。だがあのままでは俺の頭が腫れて巨大化しそうで怖かったんだ。許しておくれ。

「どうしたのよ、ぶた田。やる気無いわね」

「なんのやる気ですか!? あんなの1万回もやられたら俺の頭がぶっ飛びますよ!?」

 (≧▽≦)ギャハハ、ウケる~。

 何笑ってんですかね? 俺の頭がぶっ飛ぶのがそんなに面白そうですかね? 俺にはとてもとてもグロテスクなんですが。

「さてと、準備運動は済んだから早速部活を始めましょうかねぇ。ぶた田、宿題やってきた?」

「はい。webでは転生ものが人気だそうですよ」

「よくできました。文化祭に出す小説、ぶた田も転生ものにしなさい」

「分かりました。ところでS神さんの文化祭に出す小説の進み具合はどうですか?」

「まあまあね。けどまだタイトルが決まってなくてな」

 しげしげとS神さんの書きかけの原稿を読む。

「S神さんはタイトルを始めの方につけるタイプなんですね。俺は小説が完成してからつけますけど」

 ( ̄ー ̄) お前のことなんて聞いてねぇよ。

 さようですか。トホホ。

「転生したらプリンだった、はどうです?」

「それ、食べられて終わりだな」

「わかりませんよ。化けるかもしれません」

「ほう、どのように――」


 キーンコーンカーンコーン。


「あ、もう帰る時間ね。続きはまた明日」

「そうですね」

 夕暮れに染まった部室。S神さんは窓から校庭を見おろす。俺はそんなS神さんの背中を見つつドアをそっと閉めた。

「黄昏ることもあるんだなぁ」

 俺がそう思っていると、スマホがなった。S神さんからだ。


 “明日も待ってる”


 そのメッセージは部活のある日に送られてくる。俺はS神さんのそのメッセージを毎回読む。たとえ内容が分かっていても――

 メッセージの横にあるぶたの画像はとても可愛いものだった。





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S神さんとM田くん ~弱小Web小説部の日常~ とろり。 @towanosakura

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