ウシオ・エクスプラレーションサービス

肥の君

第1話

 アレクセイ・マルティは眼前の若者を眺め、ため息をついた。

 また、マスコミの犠牲者か、と。


 英雄的な探査者アイミー・ブッシュの伝記はベストセラーになり、映画はロングランを続けている。

 いま、マスコミが煽った惑星探査熱は、終わることなく全宇宙で過熱し続けているのだ。

 探査熱に煽られた、ただの素人が深宇宙へ向かって行く。

 惑星探査をおこなう大企業に個人が対抗出来ないのは当たり前なのに、自分は当りを引けると勘違いした若者達が、なけなしの財産を賭けて破滅へ進んでゆく。


 マルティは若者に声を掛けた。

「で、船が壊れたんで、代わりの船を購入したいと」


 若者、アフラ・ケントが答える。

「ええ、イルファ星で買った船が最悪でした。此処まで来たところでエンジンまで逝かれてしまい、買い換えるしかないと思いまして」


 見るからに安物の船だ。この星系ネオトランシルヴァニアまで来れただけでも強運の持ち主だ、とマルティは思った。


「不良品を掴まされたな。 この状態では、下取りに出してもほとんど金にならん」


「やっぱりそうですね」

 ケントはがっくりと肩を落とした。


 マルティも何とかしてあげたいが、こちらも商売、赤字なぞ出せば辺境星の支店長の首など簡単に飛ぶ。


「手持ちの金で、中央星域には帰れるだろう。 諦めが肝心だぞ」


「何とかなりませんか?」


「無い袖は振れないというだろう。 あんたの持ち金では救命艇すら買えないぞ、諦めろ」


 何か言いたそうに口を開きかけたケントは、一瞬の逡巡のあと、肩を落として店を出ていった。


 一方、マルティも、後味の悪い気持ちを振り払って、店の奥に引っ込んでいった。


 店のあるステーションの透明な天蓋の向こうには、輝く星団の巨大な光の塊が空の三分の二を占めている。あとの三分の一は星の見えない暗黒星雲に覆われている。


 人類の勢力圏の外れに位置するネオトランシルバニア星系であるが、眼の前の巨大な星団には宝の山たる入植可能な惑星が多数発見された。

 そのため惑星探査の拠点として多数の冒険者、探査会社が進出し、ゴールドラッシュの様相を呈している。

 彼らが落とすお金で盛り上がる繁華街だが、ハミダシ者、犯罪者、マフィアなども闇の世界で蠢いていて、治安はお世辞にもいいとは言えない。


 その光に溢れる繁華街の片隅を、ケントは目的もなく彷徨っていた。

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