第2話

 両親の離婚後、私は父とふたりで暮らすようになった。

 

 父はろくに炊事ができなかったので、食事はいつもコンビニ弁当か、レトルトや缶詰になった。

 それでも父の言葉はいつも私の口の中を素晴らしい甘さで満たしてくれたから、父の帰りが遅い日が続いて食べる物がカップラーメンだけになっても、少しも気にならなかった。


 だが父があの女を家に連れて来た時から、全ては変わってしまった。


 父は、母との離婚の3年後に再婚した。


 その再婚相手はとんでもない嘘つきで、その女の言葉を聞くたび、私は文字通り苦い思いを味わわされた。

 しかも、その女と再婚してから父までが嘘つきになってしまったのだ。


「お前の為を思って言ってるんだ」


(ママもよくそんなこと言ってたけど、嘘。だって苦いもん)


 私は父に反抗するようになり、後妻には当然なつかなかったので、家の中の雰囲気は悪くなった。

 家に帰りたくなかった私は塾通いを口実にして、なるべく遅い時間まで外で過ごすようになった。


 そんなある日、私はあの女が知らない男の人と一緒にいる姿を偶然、見かけた。

 かなり親密な仲であるのは、当時小学生だった私にもひとめで分かった。


 夜になって帰宅した父に、私はそのことを告げ口した。


「やめてよ。私が不倫なんてするわけないでしょ? だって、あなたの子がおなかにいるのよ?」


 後妻は慌てて言い訳したが、その言葉が嘘なのは私にはすぐに分かった。


「赤ちゃんなんて嘘だよ、パパ」

「何を言い出すのよ、この子は…。ちゃんと産婦人科の診断書だって――」

「パパじゃなくて、今日一緒にいた男の人の子供なんでしょ」

「お前、まさか…あの男とまだ別れてなかったのか?」


 父と後妻は言い争いを始め、私の口の中は言葉で説明できないくらいの酷い苦みでいっぱいになった。

 耐えられず、私は自分の部屋に逃げ込んだ。


 翌月、父は後妻と離婚した。 

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