epilogue

 ゼミ室と呼ばれる部屋は、いつも物が錯乱している。


 しかしそれも、もはやいつもの光景でしか無かった。


「先生、また明日」


「はい、お疲れ様」


 慣れた様子で帰っていく生徒をみおくって、腕時計で時刻を確認する。


 窓の外は雨が降り始めていた。


 この時期になるといつも思い出す。


 初恋を奪って、痛みを残した男のこと。


 柚希はゆっくり背伸びをして、訪問予定の人物を待つ。


 どんな人物が来るのかは聞かされていないが、柚希を訪ねるようなやつは皆どこか変わっている。


 今回もそうだろうと思いながら、すっかり冷めてしまったコーヒーを啜った。


 コンコンとノックの音が響いてどうぞと声をかける。


 カチャリと音を上げて中へと入ってきたのは青年だ。


「柚希、さんですか?」


 恐る恐るそう言いながら、顔を上げた青年は青い目をしていた。


 思わず柚希は頬を緩めて答えた。


「……おかえり、雫石」


 雨がふったら、また会いましょう。

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雨がやんだら、 澤崎海花(さわざきうみか) @umika

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