夕焼け色の目をしたあの子
結紀
夕焼け色の目をしたあの子
放課後になるといつも決まってする事がある。
終礼と同時に教室を飛び出し、校舎の四階の廊下へ向かう。
向かい側に見える美術準備室に女子生徒が一人、ポツリと佇んでいた。
美術準備室は、ちょう夕陽が射しかかって部屋中が夕焼け色に染まっていた。
その中で佇む彼女も、紅く燃えるような、だけども寂しげに感じる夕焼け色に照らされていた。
ここからでも見入ってしまう彼女の瞳。その瞳に引き寄せられるように、僕は放課後になるといつもここから向かいの準備室を覗きに来る。
もしかした、彼女には気づかれているかも知れないと、ドキドキしつつ。
彼女はいつも、準備室の中から屋上の方を見上げていた。
何故だろう。その姿から目を離せなくなってしまう。
綺麗とか可愛いとか、そういうのじゃなくて。
もっと何か不思議な感覚に襲われる。
神秘的――。
その言葉がしっくりくるかも知れない。
夕焼けに染まっている時間は、ほんの短い時間であっという間に辺りは暗くなっていく。
その頃になると、先生が見回りに来るので僕は慌てて帰り路へと向かう。
そうして、ちょっと目を離した隙に彼女はどこかへ居なくなってしまう。
それが不思議で仕方なかった。
やはり、彼女は人ではないものなのだろうか?
少し怖くなりながらも、毎日彼女を見に行く日々は続いた。
ある日、いつものように廊下から美術準備室を覗こうと思っていた所、彼女の姿が見当たらなかった。
おかしいな、とキョロキョロ準備室を覗き込む。
それでもどこにも姿は見当たらない。
うーん?と訝しみながらも、今日は居ないのかと帰ろうとした時――。
「ねえ」
急に後ろから声を掛けられ、文字通り飛び上がる程驚いた僕は、咄嗟に大声を上げてしまった。
「うわああああ!」
「失礼ね」
後ろを振り返ると、声の主は準備室の彼女だった。
「ご、ごめん……」
僕はつい、反射的に謝ってしまった。
「あの……気を悪くしたらごめんだけど、君って存在している人だったんだね」
僕がそう言うと「どういう意味よ」と彼女はムッと頬を膨らませていた。
「いや、ごめん。おばけかと……」
「はあ?そんな訳ないでしょ」と彼女は呆れながら首を振っていた。
僕は、ずっと気になっていた事を彼女に聞いてみた。
「ねえ、何でいつも美術準備室にいるの?しかもこの時間だけ」
そう訊ねると、彼女はポツリと「友達を待っているの。大事な」とだけ答えた。
その顔はどこか寂しげに見えた。
僕は、彼女のその表情がどうしても気になってしまった。
だから、お節介かもしれないけれど彼女に、おずおずと提案した。
「あの……もし良かったら、一緒に探しに行こうか?」
そう彼女に言うと、彼女は顔を上げ「本当に⁉」と嬉しそうに表情を輝かせた。
僕は、彼女のその表情を見て不覚にも少し、ときめいてしまった。
「じゃ、じゃあ手始めにこの階から探して回ろう」
そうして、一つ一つ教室の中を上から順に探し回ったが、彼女の友達は見つからなかった。
「後は、屋上とかかな……」
僕たちは、屋上へ向かったが、そこにはやはり誰も居なかった。
「ねえ、どこにも――」
申し訳なく思いながら、彼女へ振り向くと、目からいっぱいの涙をボタボタと零しながら、彼女は泣いていた。
「そっか、そうだったね……。うん、一緒に帰ろう……」
「ありがとう……ここまで連れて来てくれて……」
夕焼けが完全に暗がりに移ろい行く頃、彼女は僕の前で泡のように姿を消した。
後から調べてみたら、この学校では昔、屋上から飛び降りた生徒がいたらしい。
原因はいじめだった。
でも、飛び降りた生徒にはとても仲の良い友人が一人いた。
二人はいつも、美術準備室で待ち合わせをして帰宅していたらしかった。
夕焼け色の目をした彼女はきっと、いつまでも大事な友達の事を待っていたんだろう。
夕焼け色の目をしたあの子 結紀 @on_yuuki00
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