第5話 後悔と覚悟
「は……れ……、嘘……だよな!?」
俺は晴の傍に駆け寄る。
どうやら、刺された短剣が心臓に到達していたようだ。
「太陽の力で、短剣溶かしてやったぜ……」
少しづつ、晴の身体は結晶化し砕けていく。
「どうやら、残された時間は短いみたいだ。折、お前が世界を変えろ。お前ならそれが出来る!!」
「もう喋るな!!手遅れに……」
俺はポケットから小さな小瓶を取り出し、青い雫を1滴傷口に垂らした。
しかし、何も起こらなかった。
「クソっ!!クソっクソっクソっ!!何で!!何で治らないんだよ!!」
「もう、辞めてくれ……」
「辞められるわけないだろ、バカ野郎!!」
「いいんだって、俺のゴールは、きっとここだったんだよ。運命を受け入れるしか残されてないんだ……」
晴の下半身は結晶化し、砕けた。
「最期に、耳を貸してくれ……」
俺は晴に耳を近付けた。
「人に嫌われし戒めを受けた忌み子よ、今その戒めを全て取り払い、彼の者に神の子たる本来の力を解放す……」
その瞬間、晴の腕が結晶化し砕け散った。
「後は、任せる。この世界を救ってくれ」
そして、上半身から頭までが一気に結晶化し砕け散った。
「まさか、自身を盾にしてたった一人の一般人を庇って死ぬとは……、偽善で傲慢である!!さあ、次は貴様の番だ、安心して送ってやろう」
晴、君のお陰で何とか今を生きていけるよ。
忌々しいこの世界じゃ、生きるのは辛いかもしれないけど、俺は生きていくしかないようだな……。
俺は、大斧を引き寄せた。
「生きる事、それは原点であり絶対的に保証されるべき人間の絶対だ。それが今、壊れようとしているのだ。俺がそれを変えないで、何が神の子だ……」
俺の中の何か、不確かだけど俺をいつも支えてくれるそれが、熱くなってきて俺に言っている。
『戒めを乗り越えた先に遂には辿り着いたのだ。自分を信じ、自分の心を魂を感じて織り成せ。お前のお前だけの
「そうか、そうだよな。俺自身も忘れていた。なんせあれは、まだ何も分からない産まれたばかりの日、産まれながらに結晶を手にした俺を、周りが隠すために記憶に細工し、俺は蔑まれて、忌み嫌われ、人々の戒めの対象となった」
もう一次元、俺ならもう1次元先の色を見ることが出来る!!
心臓が踊るように跳ねる。
血流がいつもよりも良いように感じる。
体温が少しずつ上がっていくのがわかる。
感じ取れ、自然豊かなこの世界の色を!!
「大丈夫、もう怖いものなんてない。お前が最後にくれた勇気の灯火、ここで消す訳にはいかねぇよな!!」
「威勢だけは一人前だ!!だが、貴様は私に勝てない!!」
「確かに、今のままじゃ勝てない。でもな、俺は俺を信じる!!その信じた先に、奇跡は起こせんだよ」
俺は胸を拳で2回叩く仕草をした。
『勝ちたいか?』
勝ちたい
『守りたいか?』
全部守る
『力が欲しいか?』
その為には必要だ。だから、寄越せ!!
『よかろう、お前に力を返す。とても大きな力であり、人智を超えた先の力じゃ。使い方によっては世界を滅ぼすものだ、使い方を間違えるなよ』
もう二度と何も奪われたくないんだ、だから、俺の力を返してくれ!!
『では、契りはここで終わりとなる。あとは、己が意志のままに』
俺の心は何よりも硬く、何よりも鋭く、そして、どこまでも透き通るように美しく。
それでも、誰にでも寄り添えるような……
そんな力を、俺は求める……
はっ!?
俺は意識が戻った。
ダーウィンの拳が近くまで迫っていた。
「
"カーンっ!!"
「何ッ!?この方さ、ダイヤモンドよりも硬いだと!!」
「俺は決めたんだ、俺はみんなの為、いや、この国の為に俺は俺をもう一度取り戻した!!悪いがここで貴様の生命は終わりだ。諦めて死ね!!」
俺は斧に結晶化した自身の魂をセットした。
「コンプレッション……」
ダーウィンの右横腹目掛けて振り抜く。
その瞬間、5mほどダーウィンが横に吹き飛んだ。
「いいぞ、いいぞもっとだ!!もっと貴様の力を俺に味合わせろ!!」
ダーウィンは懐から黒く濁った結晶を取り出した。
「これは、我々の研究から生まれた副産物、黒化した結晶だ。これを使えば結晶のエネルギーを使用できる代償として、少しばかし魂を削る事になる。しかし、そんな事は関係無い。今はただ、貴様の力全てを引き出し、俺が壊す!!」
ダーウィンは結晶を呑み込み、禍々しいオーラを放ち始めた。
「サあ、続キを始めヨウか!!」
ダーウィンは一瞬で距離を詰める。
しかしそこには、俺の斧の刃が横ベクトルの力を受けながらダーウィンの顔をクリティカルに捉えた。
"カーンっ!!"
「硬っ!!」
ダーウィンの顔に当たった斧は弾かれ、俺もその衝撃で軽く後ろに吹き飛んだ。
「チッ、へし折れたと思ったが、中々に壊れない。流石結晶エネルギーを纏っていると言うだけはあるな。しかし、次の一撃で決めるぞ!!」
ダーウィンは再び突進の構えをとる。
「ちと待てや、それなんやねん」
俺は黒くなっている結晶を指差した。
「冥土の土産に教えてやろう。これこそ、我々の技術の結晶である、
「その研究で、何人の同胞が死んだ?」
「報告を聞いただけだと1000人ほどらしい。だが、我々の成果の一部になれたのなら、十分名誉な事だ!!」
「せ、1000人も……」
俺の頬を涙が流れた。
「……様らは、……で葬り……る」
「は?なんだ?聞こえんぞ、もう少し大きい声で話せ!」
「同胞の恨みは、ここで晴らす!!そして、貴様らは、ここで葬り去る!!絶対に許さない!!」
その瞬間、俺の結晶がより一層強い光を纏った。
さっき弾かれたのは、多分俺の斧にあんまり結晶エネルギーがチャージされてなかったからだと思う。
でも、今は十二分にチャージされてる。
手元のチャージゲージは、FULLを表示していた。
俺は斧を構える。
その瞬間、ダーウィンも突進を開始した。
3、2、1……、ここだっ!!
俺は一身に斧を振り、ダーウィンの首を捉えた。
"カーンっ!!"
「やはり、貴様の力では私の首はとれぬようだな!!」
ダーウィンは、高笑いしながら勝ち誇っている。
「それは、どうかな?……
俺は、そう言いながら、斧についているトリガーを引く。
その瞬間、圧縮されていたエネルギーを一瞬で爆発させて、威力の上がったエネルギーの斬撃を繰り出し、そのままの威力でダーウィンの首を切り落とした。
「やはり、まだ少しだけブレるな。そこの改良は必要だな」
俺は斧を軽く振り、斧についた血を振り払う。
そして、生き残りの兵士の元へ向かった。
「おい、そこの兵士。お前らのトップにこう伝えな。『国に侵攻すると言うなら、俺が幾らでも相手になってやる。だから、侵略なんてやめろ。それに、俺達は貴様らの宣戦布告を受け入れていない。これはお前達の侵略行為だということを忘れるなよ』とな」
「は、はひっ!!」
兵士は、戦闘機に乗り、そのまま飛び去った。
「さてと、アイツ生きてるかな?」
「俺の事か?」
「よお、紘。相変わらずしぶとく生きてるな」
「お前の方こそ、アレ、何?」
「何も見てないことにとかして貰えないよね?」
「当たり前だろ。あの結晶化はお前自身の結晶なのか?」
「端的に言えば、そうです。あと、これは紘の結晶とは違い、結晶の力を一度は失ってたけど、再び手にした時に起こる現象らしい」
「俺にも出来るか?」
「無理だね、もう方法がない」
「それは、結晶化を封印する方法がないということか?」
「それもだけど、結晶化の発現が0歳以内、つまり生まれた段階で結晶化出来る人間だけが許される封印だから紘には無理だよ」
「そうか、それじゃあ本当に折は、神の子なのかもしれないな」
「かもじゃなくて、正真正銘の神の子なんだよ。但し、人工的に作られた偽物のだけど」
「偽物でも、お前は俺達の、いや、この国の英雄だ。胸を張れ!!」
「英雄なんかじゃないよ。晴を救えなかった。約束したのに……」
俺は晴の結晶片を握り締めた。
全てが輝石と成り果てるまで 汐風 波沙 @groundriku141213
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