子爵家の侵入者
騎士団第4部隊長の依頼
王都への長期滞在が決まった。
探偵の依頼と辺境伯として王都でしなくてはいけない仕事が連続したのだ。
依頼人は何度か捜査協力をしている王都の騎士団、第4部隊の隊長、デレク・モラン。第4部隊は貴族が被害者になった事件を捜査する隊である。
謀略渦巻く貴族社会で、表に出てしまった厄介事に落とし所をつけるのが主な仕事だ。
貴族が悪事に絡んでいた場合の処理も担当するがゆえに、隊長は貴族社会の情勢を常に把握し、柔軟に、そして国の最善のために動ける人物が選ばれる。
現隊長であるデレクは、とくに狡猾で、腹芸も
以前、平民から金銭を巻き上げていた貴族を容赦なく告発、そして排斥したことから平民の支持も熱い。
時にはもみ消して恩を売り、時には徹底的に潰す。
その片棒をアンジェリカが担がされているのはよろしい状況ではないが、アンジェリカが隊長の
「遠路はるばる、ありがとうございます」
王都の中心街にある騎士団本部を訪れると、デレクに出迎えられた。
すらっとした長身に騎士としては長めの銀髪は手入れがしっかりされている。服装も丁寧に整えられ、所作も完璧である。男でもみほれるような端麗な容姿は、ある意味第4部隊の隊長らしい姿だ。
デレクの案内で応接室に通される。いつも通り、廊下ですれ違う人はいなかった。
「屋敷への侵入者の調査、でしたね。どちらの屋敷が被害に?」
アンジェリカの言葉に、デレクは頷く。
「ローレル子爵の屋敷です」
「……ほう」
アンジェリカが小さく頷く。
「……なにか盗まれたものが?」
デレクが首を小さく横に振り、紙の束をテーブルに置いた。
「捜査資料です。こちらが室内の状況で……」
デレクに絵を数枚見せられる、執務室と思われる部屋だ。棚のあたりと執務机周辺が、ひどく荒らされている。
「盗まれたものはないという話ですが、子爵は侵入者を必ず見つけてくれと」
アンジェリカは資料にさっと目を通すと一瞬、オレに視線をよこした。
オレが気になっていることを聞け、そう理解して口を開く。
「ローレル子爵様は、慈善事業に熱心な方でしたね。お会いできますか?」
「はい、後ほど聴取と捜査にご同行いただきたく、現場の屋敷へご案内します」
デレクがアンジェリカに顔を向けた。アンジェリカが頷いたのを見て、オレは話を続ける。
「そう言えば、以前、ローレル子爵のご令嬢をご紹介いただききましたね」
「えぇ、サラは婚約者です。ですので、個人的な依頼にもなりますが……」
デレクが少しためらいがちに視線を泳がせる。珍しいなと思っていると、隣からくすりと笑い声がした。横を向くと、アンジェリカが楽しそうに笑っている。
「
アンジェリカの言葉にデレクは一瞬目を丸くする。しかしそれもすぐにしまい込み、それもそうですね、と仮面のような笑顔を張り付けながら答えた。
貴族探偵は助手の秘密を解かない~辺境伯アンジェリカの推理~ 藤也いらいち @Touya-mame
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