〜エピローグ〜

 歩き続けた。


  いろんな景色を写真にとって、帰って家族や友人たちに見せよう。そう思った。


 歩いて歩いて歩くたびに地図に丸を付けた。


 ゆったり市場を見て回って港を歩いていたとき『日本の方ですか?』と父親くらいの男性に声をかけられた。


 彼は娘が違う国で試合に出ているため応援に来たそうで、その帰りにヘルシンキに寄ったのだという。


 おすすめのところはありましたか?と聞かれ、わたしは歩くことしかしていないのだと丸でいっぱいになった地図を見せた。


 帰って思い出した時、地図で歩いた景色だけはわかりそうです、と話した時、


「あなたはヘルシンキの伊能忠敬のようですね」


 と彼は笑った。


 帰国して、あなただけの地図を作ってみてください、と。


 わたしも笑ってしまった。


 ヘルシンキに来て、社会の授業で習った伊能忠敬の名前を聞くことになるとは思っていなかったからだ。


 でも、悪くない。


 帰国してから思い出と一緒にヘルシンキで歩いた道を写真もつけて地図にしてみよう。


 些細なことだったのに、帰国してこれをやってみたい!と思ったとき、なんだか帰るのも楽しみになった。


 雑貨屋さんに行ってあのペンを買ってあのシールを貼って、ああやってデコレーションして、など。


 デザインの国で、なんだか新しいことを見つけた気がした。


 それからわたしは、なにかを探したくなるとフィンランドへやって来ては歩く。


 もちろん、日本の暮らしでも歩くようになり、写真を片手に歩いた道のりの地図をスケッチブックに作ってみたりする。


 新しい国で、わたしは新しいわたしを見つけた気がした。

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【短編エッセイ】ヘルシンキの伊能忠敬 〜ヘルシンキに恋した記録〜 保桜さやか @bou-saya

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