第百二十二話 偽りしハニーヤ

 ガラテヤ様の鼻水が止まってから、三時間程度が過ぎた頃。


 俺は広い教養を持つメイラークム先生と、元冒険者であるためか地理に詳しいケーリッジ先生の手を借り、アンドレアの「友」たるハニーヤに関わりがありそうな場所について、調査を始めた。


 そして導き出されたいくつかのヒントを、酒場に皆を集めて共有する。


 まず一つ目は、アンドレアの「友」というのは、例の「偽りしハーニヤ」で間違いないということ。


 これについては、改めてハニーヤが何者かを確かめないことには、その情報の正確性が薄れてしまうためである。

 そのハニーヤという人間が、確実にアンドレアの「友」であるか否かは、どうしても確かめなければならなかったのだ。


 そして二つ目。

 アンドレアとハニーヤに関係する場所は、どうやらウェンディル王国の北の果てらしい、ということだ。

 書庫でざっくりと読んだ時に見つかった「チミテリア山」は、確かにウェンディル王国の最北に位置する山であり、誰一人超えることが出来ていない、まさに世界の壁とも言える山である。

 北の、それも「果て」と言うには、ちょうど良い場所だろう。


 しかし、その記述だけでチミテリア山がハニーヤゆかりの場所であると考えるには早計であるとしたが……資料の記述にヒントが残されていた。

 以下は、そのヒントが眠っていた記述の一部である。



 錬金術師アンドレアと、偽りしハニーヤ。

 二人の男は信奉者たちに追放された後、北へと旅立った。

 彼らは強き者であったが、しかし人の目に清くは映らなかったのだ。


 故に逃れた。

 北へ北へ、茨を間を抜け、山を越え、雪の中へ身を投げた。


 そして辿り着いた先で、ハニーヤは、識るべきではないことを識った。


 ハニーヤは突然に狂い、死を遂げたのである。


 その理由を知るのは、今やアンドレアただ一人。


 アンドレアは彼を弔った後、何処かの洞窟へ姿を消したと、そのような噂がある。

 真実は闇の中だが、少なくとも、それより北へ向かう彼の姿は無かったそうである。


 彼らを慕う者達の誰に顔を合わせることもなく、かの偉大なるアンドレアも、果てへ至りしハニーヤも、最期は目に見られることなく、この世を去ったのだろう。


 ハニーヤを殺し、アンドレアを北から追い出した、「識るべきではないこと」は、今や誰も掴み得ない、隠されるまでもなく至ることができないであろう真実として、死者の記憶に残るのみである。


 我々は、やがて追えるだろうか。

 ハニーヤが至り、アンドレアが目を背けた、その真実に。



 以上の他にも、様々な文章が残っていたが……ハニーヤに関係する場所についての記述は、不思議とそれ以外に見当たらなかった。

 故に、「北の果て」イコール「チミテリア山」と考えて、間違い無さそうである。


 他に書いてあったヒントを大きく三つ目と括ると、「ハニーヤが北の果てにて識ってしまったものは、とてもこの世とは思えないことだったらしい」という、アンドレアから又聞きしたらしい情報であった。


 そもそもアンドレアも、ハニーヤが狂死する直前に口から漏れ出すように発していた、言葉とも呼べないような声を何とか訳しただけであり、実際は「よく分からないが、狂ってしまう程に物凄い何か」とまとめるのがせいぜいな情報でしかなかったというのが、正直な感想である。


「とりあえず、北のチミテリア山に行けば良いのだな。国の端の端……ずっと先の端っこまで」


「険しい道。おいら、食料と水筒……追加で買ってくる」


「最悪、馬車が通れなくなっちまう可能性も考えねェとなァ。雪なんざ、王都から南じゃあ滅多に見ねェもんだ。それが人を埋めちまうくらい降るんだろ?」


「私も、パワードスーツが濡れないように気をつけないとね。あと、メイラークム先生と協力して、凍傷の対策も……」


「そうね、ケーリッジ先生。身体を温める薬の原料になりそうなものを、少し多めに用意しておこうかしら」


「剣が錆びてしまわぬよう、カバーも用意しておきますかな……」


「そうネ!出発までの間に、全員分のカバーを用意しておくワ!それと、もしもの時のために、簡易的な武装も用意しといてアゲル!」


 ざっくりではあるのの、行き先が決まったところで、俺達はそれぞれ、一週間後までの出発に向けて準備を始めることにした。


 目的地は北の果て、ハニーヤが行き着き、狂い果てた先。

 前人未到の凍てつく世界、チミテリア山へ。

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四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜 最上 虎々 @Uru-mogami

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