ウィスカム辺境伯の受難
もっちゃん(元貴)
辺境伯の人生
ここは、ルーべヒッピ王国の辺境にあるラーガル家の屋敷である。
私はそのラーガル家当主のウィスカム辺境伯だ。
前国王ルーべヒッピ1世がスーミラ国との戦争を終結させて、この国が出来た。
今は、息子のルーペヒッピ2世がこの国を治めている。
みなは、ルーべヒッピ2世国王陛下は無能であると言うが、私は非常に聡明な方と認識している。
私は男爵の地位だったが、王国立大学校を主席で卒業したあと、すぐに、陛下から伝達があり、辺境伯に格上げし、国の1番北の外れにある辺境の地、チサート郡の領主に任命された。
私は23歳だった時のことである。
その後、任命式の時に初めて国王陛下と謁見した。
「ウィスカム男爵には、今から辺境伯として不毛の土地を開拓してもらいたい、期待をしている」
「身に余るお言葉をいただき大変光栄であります、必ずや街を繁栄させて、この国のために一生を捧げる所存であります」
「うむ!頼んだぞ!」
それから国王陛下にチサート郡の今後についてや要望を出すたび陛下はわざわざ私と直接、対話をしていただいた。
そのためか、みるみるチサート郡は開墾作業もはかどり、農作物の土地が増えた。
農業が主要産業だった領民の貧困率は下がり始めた。
チサート郡は海に面していることもあり、貿易業にも力を入れ始めたところ移民も増えて、さらなる街の発展の見込みが立ったときだった。
私が体調を崩し始めたのは‥
チサート郡と陛下がいる宮殿は距離がだいぶ離れており、馬車で1週間かかることから、以前のように何回も行けなくなってしまった。
最近は、日に日に力が落ちてきており宮殿に行くこともできなくなったが、1カ月に1回は、陛下から手紙が来るようになった。
陛下も心配してくれて、宮廷医師を派遣していただき最初倒れた時よりは、だいぶ良くなってきた。
職務室で、書類を眺めていると
ーーコンコン
扉を叩く音がする。
誰か来たようだ。
「はい、どうぞ」
「失礼しますわ」
この声は、愛する妻の声だ。
「あなた、仕事は終わりになりまして?」
妻のハーネットがそう言って中に入って来た。
妻は、三大公爵家のバーンハート家ニルコ公爵のご令嬢だった。
私が最初に体調悪くなった時に、陛下が
「独り身では、何かと不便だろう、バーンハート家の公爵令嬢ハーネットという博識高い女性がいるから、妻として辺境伯に推薦する」と手紙と一緒に、嫁ぎに来たのだった。
このような辺境の地に公爵令嬢が嫁ぎにくると聞いた時は驚いたが、妻は何も不満を言わず私に接してくれる。
妻は、立ち振る舞いも完璧で知識も豊富で、女性で領主になるものは、今はいないが妻が最初の女性領主になるかもしれない。
私が体調が悪い時以外でも仕事の補佐も毎日してくれるようになったため、仕事の負担が妻にかかっているが、どうやら苦にならないようだ。
「最近、仕事のしすぎではないですか?お顔も少し以前より細くなって、咳もでているようですし‥‥」
心配な表情をするハーネット。
「しかし、まだ陛下から託されたこの領土の安定と繁栄はまだまだ道半ば、領民の貧困も解消しなければ‥」
「それは、立派なことですが、あなたが身体に何かあっては領民も私もワースが産まれたばかりですし困りますわ!」
「ああ、息子が大きくなるまでは頑張りたいとな」
妻の淹れてくれた紅茶を飲む。
「あー、いつも通りおいし‥」
「ウッ!! ガハッ!!!」
口から血が出てテーブルを汚してしまった。
片膝を床について、辛そうな表情のウィスカム。
「大変ですわ!! 医師をこちらへお呼びになって!!」
ーーパンパン
侍女に医師を呼ぶよう手を叩く。
「はい!今すぐに!」
侍女が走って屋敷にいる医師を呼びに行った。
「大丈夫だ‥‥」
「ダメですわ!すごく辛そうな表情されています、休んでください!」
「わ、わかった、医師の診断が終わり次第しばらく仮眠をすることにする」
「こちらです!」
侍女が、医師を呼んで来てくれた。
「どうなされました辺境伯様?」
「ちょっと血を吐いてしまって‥‥」
血を吐いてしまったテーブルを見る医師。
「なんですと!早く診療室に向かいましょう」
医師とウィスカム様は診療室に向かって歩いて行った。
私は、2人の後ろ姿を見守るぐらいしか出来なかった。
しばらくたった後、医師が私に話があるようで、侍女が私を呼びに来たのであった。
「ハーネット様、医師が話をしたいと申しています」
「わかったわ」
私は、医師を応接間に招いて話を聞くことにした。
「ウィスカム様の具合は、どうなんですの?」
「今はお休みになされています」
「それはよかったですわ、やはり心労でお疲れになられているんですか?」
「それもありますが、医師の立場からこういうのもどうかと思われるでしょうが、何やら得体の知れない力によって生命力を奪われているみたいで日に日に体力が無くなっていくのです」
「このままでは、いずれ力尽きるのも時間の問題かと」
「そんな‥」
「このことは本人には言っていません、ハーネット様に先にお伝えしました」
「ええ、そうですわね、伝えていただきありがとうございます」
おそらくは、ウィスカム様もある程度はご自身でもわかっていると思うわ。
自分にはあまり時間が残されていない事を!
だから余計に仕事を無理に続けようとしているに違いないわ!
はやくこの病を治す方法を見つけ出さないといけないけど、医師もお手上げではどうしたらいいんですの。
その後、国王陛下に使者を出して宮廷医師を派遣してもらったりしたが、どうにもならず。
ただ日々が過ぎていった。
ウィスカム様は、次第に足腰が弱くなり寝たきりになってしまっていた。
「ハーネットを呼んでおくれ」
「はい」
侍女にハーネットを呼ぶように頼んだ辺境伯。
「あなた、どうしたの?」
すぐに、ハーネットがやってきた。
「もう、ダメだ、後は頼んだ、息子の成人姿まで見たかったが‥ゴホッ」
「そんなこと言わないでくださいまし、お願いですから!」
泣きながらウィスカムの手を握り締めるハーネット。
「ごめ‥‥ん」
ーーガクッ
「あなた、あなた、目を覚ましてお願い!」
横にいた医師が、
「残念ながらもう‥‥」
「そっ、そんな、あなたぁぁーーー!!!」
泣き崩れるハーネットだった。
???「どうやら計画通りに進んでいるようだな、フッハハハハッーーーー!!!」
ウィスカム辺境伯の受難 もっちゃん(元貴) @moChaN315
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