あの日、閉ざされた私の心を開いてくれた君

十六夜 水明

第1話

 それは、私が本を開いた時に起こったことだ。

 

 今となって、そこは、それはそれは窓際で暖かくぼどよい日光がふんわりと広がった、まさしく読書をするためだけの場所だったと思う。




 急に後ろからトントンと肩をたたかれた。


「――何?」

「なんで、いつも1人で本ばっか読んでんの?」

 反射的に後ろを振り向くと、サラッとした黒髪が似合う、顔立ちが整った男がいた。

(同級生……いや、クラスメイトか)


 ここで思ったことは、ただ一つ。1度も話したことがない私に何の用があって、喋りかけてきたのか、という疑問だ。


「逆に、読んじゃいけない理由なんてあるの?」

「……別に。でも、お前いつも1人だからさ、寂しくねぇのかなって思っただけ」


「そう。分かった。他に用はないよね? 今、本読んでて忙しいから」


 誰もがこんな態度を取る人間を見たら『冷たい』と思うだろうが、これには理由があるのだ。

 まぁ、後々そのことを話す時が来るだろう。


 完全に拒絶の意思を込めた態度を正面から受けたのだ、もういないだろう。そう思い、読書に集中していると、隣の席から誰かが少し乱暴に座る音がした。

(隣の席は、不登校だった様な……)



 取り敢えず、音がした方を見るとくだんの席に、あの男が座っていたのだ。

(何が楽しくて、ぼーっとしてるんだ?)


 珍しく人に興味を持った自分に驚きながらも、この気持ちに気付いてはいけない気がして、知らないふりをした。


───キーン コーン カーン コーン……そんな非常にうるさいチャイムの音は、休み時間の終了を示していた。

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あの日、閉ざされた私の心を開いてくれた君 十六夜 水明 @chinoki

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