第31話 逃げた先で

 ──ブロロロロロロ……


 お嬢様を後ろに乗せてバイクに跨っている。久しぶりの単車だが、運転は慣れたものでハンドルが馴染んでいる気がする。


 それもそのはず、信頼できるあきらにこれの管理も任せていたから。元々は俺の所有物だ。その後ろを前傾姿勢で駆けてくるのが、以前俺のチームの副総長だった直人とその後輩だ。


 ヘルメットにはBluetoothスピーカーが内蔵されているものだ。それで、今現状を報告してこれからどうするかの作戦を練っている所だ。


『じゃあ、今のそのイージスとかいうところとは敵対関係ではないんだな?』


「あぁ。俺の言葉に気がついてくれれば追ってきてくれるはず。あの時はもしかしたら警察関係者が監視していたかもしれないからな」


『そうか。亮も、頭使うようになったんだなぁ? 昔は頭を使わないで拳ばっかり使って喧嘩、喧嘩の日々だっただろ?』


「そりゃ、昔の話だろ?」


 昔の事が頭を掠めて少し感慨にふけってしまう。あの頃が懐かしい。でも俺は後悔していない。イージスに入って強くなれた。


『これからどうすんっすかぁ?』


「人気がない場所に行って応援を待つ。依頼人を守るためにメデューサってテロ集団と全面戦争だ」


『はっはっはっ! そりゃいいや。俺達の私生活を脅かす輩の退治ですねぇ!? そりゃ、腕がなりますわい!』


「いんや。気持ちは嬉しいがなぁ。今回はチャカも絡んでくる……そうなるとなぁ。あんまり巻き込みたくねぇ……」


 俺はバイクに乗りながら今にも蜂の巣にされる恐怖に背筋に冷や汗が流れる。銃火器相手じゃ分が悪いかもしれない。


『カシラァ。アッシらはぁ、亮のためなら、命張れる奴らばっかりですよ!』


「いや、だがよ。家庭があるだろう! 家庭を大事にしろよ! 俺はな、大切な人を失った。だから、失う者の気持ちがわかるんだよ」


『アッシらぁ、灯さんの時ァなんもできなかった。そういやぁ、あん時の魔法者は……』


「まだ捕まってねぇ」


 しばらく沈黙が支配する。

 あの時のことと、あの顔を俺は忘れねぇ。

 俺の大切だった人を奪ったアイツは。


 過ぎ去っていく街並みは段々と倉庫が多いエリアになっていく。そして、人気のない知り合いが所有しているという倉庫に着いた。


「ここどこなのよ?」


「知り合いの倉庫です。少しここに身を潜めましょう」


 周りを警戒しながらバイクからお嬢様を下ろして倉庫の中へと連れていく。

 中はガラーンとしていて何も無い。


「ここはしばらく使ってないらしいんで、何かあっても大丈夫だそうっす! アッシら、この辺見回りしてきます!」


「あぁ。悪いな」


 バイクを倉庫の影に隠して身を潜めることにした。メデューサがどこまで情報を握っているのかは分からないが、まだ場所は割れていないだろう。


 ここで少しの間留まっていればイージスの人達が来てくれると思うんだけど。警察の奴らはいくら銃火器が使えると言っても信用できなければ意味がない。


「こんな所でどうやって生活するのよ?」


「いや、ここでは生活しません。一旦イージスの人達と合流して、警察をまきます」


「そう」


 バイクの音が聞こえてきた。響き渡る重低音が胃を震わせる。


「味方だといいが……」


 少し入口を開けて確認する。

 革ジャンに革パンを履いていてブーツもエンジニアブーツだ。バイクから降りるところだった。


「翔さん?」


「おう。バレないように来たぜ?」


「その格好、いいですね」


「そうか? 自前だよ。いつもと同じ格好だとバレるだろ? で? これからどうすんだ? 何でこんなことした?」


「それはですねぇ……」


 何故こんなことをしたか、それを説明したのだ。お嬢様が言っていた警察関係者にもおかしなヤツらがいるという話。


 女を買っている奴、裏と通じている奴らがいるらしいということ。それを翔さんに話した。神妙な面持ちで考え込んでいる。


 俺よりは頭が回るであろう翔さんなら、何か思いつくんじゃないかと期待していた。


「わざと偽の情報を流してそこに現れた奴らを叩くってのはどうだ?」


「のってきますかね?」


「俺たちで亮たちが近くにいることを匂わせる。そしたら、警察関係者の奴らにわざと少し姿を見せるんだ。その後にお嬢様に成りすました何者かと亮が一緒にウチで用意したホテルに逃げ込む。とかはどうだ?」


「流石です。それで行きましょう。お嬢様は、信頼している俺の仲間に預けてもいいですか?」


「あぁ。大丈夫だろう」


 翔さんからのGOが出たので、そのまま晃達に預かってもらうことにした。少しして戻ってきたので作戦を伝える。


「分かったぜぇ。じゃあ、ドンパチが終わるまで匿ってればいいんだな?」


「あぁ。すまんな。頼む。千佳にも悪いな。宜しくな」


「頭からのお願いだと知ればなんも言わねぇよ。任せておけ」


 申し訳ない思いも胸に抱きながらお嬢様をお願いすることにする。


「ねぇ、あんた、亮とか言った?」


「そうですが?」


「わ……私のせいで人が死ぬとかは目覚めが悪いからやめてよね! そ、その……無事に帰ってきなさいよ……」


「案外優しいんですね? 有難うございます」


 礼を言い背を向けた。

 作戦へと動き出す。

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魔法が溢れる世界で大切な人を護る方法 ゆる弥 @yuruya

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