賽の河原
「うわぁ~…こりゃあ…ヤバいな…この数か月で…3キロも体重が増えてるじゃん…」
数か月ぶりに、体重計に乗った佳文は、驚いた。
「まぁ…これと言って、運動もしてなかったし…
釣りに行ってサーフや河川敷を歩くぐらいじゃあな…」
佳文は、毎週暇さえあれば、釣りに出掛けていた。
「うん…やっぱり…この体重増を、なんとかしないとな…」
そう思ったのは、数週間ほど前の事だった。
地元の小さな自転車屋と大手バイシクルショップを数軒回り
ロードレーサータイプの自転車ではなく、マウンテンバイクを購入した。
なぜ、ロードレーサータイプの自転車でなくマウンテンバイクなのかは、
趣味を考慮していた。
佳文の趣味は、フィッシング、釣りなのだった。
フィッシングとカッコよく言うのは、つまりルアー(疑似餌)で、
魚を…フィッシュを…ここは、魚と呼んだ方が、しっくりくるので魚としよう、
魚を釣るのが趣味で、毎週末、暇さえあれば、釣りをしにどこかへ車を走らせている、
なので、佳文は、サーフや河川敷の悪路も走れるマウンテンバイクを選んだ。
ただ、マウンテンバイクの凸凹タイヤだけは、変更してもらった。
マウンテンバイクの凸凹のタイヤは、悪路走破には向いてはいるが、
舗装道路を走るには、抵抗が多過ぎるのを佳文は、知っていた。
以前友人が乗っていた。マウンテンバイクを借りて、数キロ走った事がある、
自転車に乗るのも久しぶりな事もあるが、
数キロの往復で足がパンパンになった経験が佳文にはあった。
そう、舗装道路をマウンテンバイクで走るのは、疲れる…のだ、
佳文は、マウンテンバイクの凸凹タイヤを、街乗り用に近いタイヤに交換してもらい
注文したマウンテンバイクが、届くと連絡があり、
車を走らせて自転車屋に取りに行こうと家を出るところだった。
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し貼り付け外へ出た。
車の鍵を開け、車のドアを開き、車のドアを閉め、深く溜息をついて
イグニッションキーを回し車のエンジンを始動し車を発進させた。
「どんな感じに完成してるかな~楽しみだな」
暫く車を走らせると、自転車屋に到着した。
「こんにちは、マウンテンバイクを受け取りに来ました。」
自転車屋の店舗に入り、声をかけた。
「はい」と店舗奥から声がして、
「注文のタイヤの到着が遅れて…遅くなりました…すいません」
受け渡しが、3日ほど遅れた事を謝りながら店主が出てきた。
「いえいえ、こちらは今日の受け渡しが都合がいいので」と
佳文は、笑顔で応えた。
平日に取りに来てと言われても、帰宅が夜遅く、
自転車屋が、閉店してる時間にしか、取りに来れないのだった。
「そうですが…すいません」
自転車屋の店主は、すまなそうな顔をしてるだけに見えたが、
大人な佳文は、気にしなかった。
「これが、ご注文のマウンテンバイクです」と
自転車屋の店主は、手に真新しい軍手をはめて、
マウンテンバイクにかけた半透明のビニールシートをと取り、
作業中に着いた汚れを確認しながら、マウンテンバイクを佳文の前に、
引っ張り出した。
「おぉ…これですね」
佳文は、心ウキウキだったが、自転車屋に展示してあったマウンテンバイクのタイヤだけを、
交換なので、見た目は殆ど変わってない、
「タイヤの空気圧とブレーキも調整済なのですが、
不具合が無いか試乗してみてください」
自転車屋の店主は、そう言い、佳文にマウンテンバイクを渡した。
「わかりました。少し周りを走って来ますね」
佳文は、マウンテンバイクに乗って走りだした。
「へぇ…やっぱりタイヤを変えたから走り出しも走ってる途中も楽だな~」
自転車屋から300m程先の交差点を曲がり、
そこからマウンテンバイクのギアを落とし立ち漕ぎをし、
一気にスピードを出してみた。
「マウンテンバイクも結構スピードが出るんだな」
マウンテンバイクのペダルを漕ぐのを止めて、
「ブレーキは…どうだ?」
そう言い、後ろブレーキを握ってから前ブレーキを握った。
「ズザザザっ」とタイヤが路面を滑りマウンテンバイクは止まった。
「自転車のブレーキの利きって…これくらいなんだっけ…」
久しく自転車に乗ってない佳文には、このブレーキの利きが分からなかった。
「ブレーキ…まぁ…こんなモンなんだろう」
佳文は、止めたマウンテンバイクを走らせ自転車屋に戻った。
自転車屋の前に店主が立って待っていた。
「どうでしたか?ハンドルのブレとか異音は、ありませんでしたか?」
自転車屋の店主の問いに佳文は、
「その点は、気になりませんでした。あの?」
佳文の、あの?に自転車屋の店主が
「はい、なにか気になる事がありましたか?」
「いや…自転車のブレーキの利きって…どんなんですか?」
佳文の言葉に、自転車屋の店主は、キョトンとし
「自転車のブレーキの利きですか…それじゃあ
向うからゆっくりなスピードでここまで自転車を走らせて
私が、手を上げたらマウンテンバイクのブレーキを掛けてください」
「わかりました。」
佳文は、50m程マウンテンバイクで走りUターンをし
自転車屋の店主が立つ所までマウンテンバイクを走らせ
店主まで2mほど近づいた時、店主は、サッと手を上げた。
佳文は、それを見てマウンテンバイクのブレーキを握りしめた。
「ズザザッ」と舗装道路をマウンテンバイクのタイヤが少し滑り音が鳴り
マウンテンバイクは止まった。
「ん~少しブレーキの利きがちょっと強すぎますが…緩めますか?」
自転車屋の店主が、佳文に聞いた。
「これで、ブレーキが強いんですね…」
「はい、ブレーキを掛けてタイヤがロックするのは、ブレーキの利きが強いんです」
自転車屋の店主の説明を受けた佳文は、少し考え
「ブレーキは、このままで良いです」と答えた。
「分かりました。他に気になった箇所はありますか?」
自転車屋の店主が聞いたが、佳文には、分からなかった。
すると、自転車屋の店主は、
「もし気になる箇所があれば、いつでも調整しますので」
と佳文に伝えた。
「分かりました。何かあれば持って来ます」
佳文が、答えると自転車屋の店主は、
「この車に積み込めば、よろしいですか?」
自転車屋の店主は、佳文の車を見て、
「積めますかね…」と続けた。
「あぁ、後部シートは外したままだし、後部座席は畳んであるので、
マウンテンバイクを寝かせて乗せれば積めますよ」
佳文は、観音開きの後部ドアを開けた。
自転車屋の店主は、マウンテンバイクをヒョイと持ち上げ
車のボディーに当らないように、荷室になった車の後部座席に、
マウンテンバイクを積んでくれた。
会計を済ませて、車に乗り込み自宅へ向かったが、
途中の大きな交差点を曲がり遠回りをした。
開発地の中を通る幹線道路を進むと、路肩に花や飲料が置かれた場所が目に入った。
佳文が、遠回りをして向かったのは、この場所だった。
その場所の道路は、長方形に焼け爛れて黒く煤けていた。
数週間前の夜、この場所で乗用車が焼ける火事があった。
TVニュースにも流れ、若い男性が焼身自殺を図ったとアナウンサーが語った。
佳文は、焼け爛れた跡が残る数メートル手前で車を止めた。
「やっぱり…居るな…」
そう呟き、車を発進させた。
佳文は、その場所に導かれるモノが居るのかを確認しに来たのだった。
「まだ、明るい時間だし人通りも、車通りも多いからな…今夜に戻ってくるか…」
この開発中の地区には、すでに大きなスーパーや工場を有する事務所が稼働していた。
佳文は、家に着き車を止めて、
車の後部からマウンテンバイクを下ろし、車に施錠し
玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し抜いた髪の毛を貼り付け
購入したマウンテンバイクを玄関先に置いてから玄関を上がり、
ソファに座った。
「あの場所は、22時を過ぎれば車の通りは一気に減るから
その後、導くか…」
そして時間が過ぎた23時前に
佳文は、玄関のドアの鍵を開け、ドアとドア枠に渡し張り付けた髪の毛を剥がし
ドアを開けて外へ出た。
玄関のドアを閉め、玄関ドアの鍵を掛け、佳文は自分の髪の毛を1本抜き
ドアとドア枠に抜いた髪の毛を渡し、貼り付け外へ出た。
車の鍵を開け、車のドアを開き、車のドアを閉め、深く溜息をついて
イグニッションキーを回し車のエンジンを始動した。
「さてと…行きますか」
佳文は、車を走らせ焼身自殺現場へ向かった。
焼身自殺現場を通り過ぎ次の交差点で車をUターンさせて、
昼間に車を止めた場所に車を止めた。
「さてと…導きますか…」
そう呟き、車のエンジンを止めて、運転席のドアを開け、佳文は、車から降りた。
運転席のドアを閉めて、若い男が座る歩道と道路を区切る縁石ブロックに近づき、
若い男の隣に立った。
若い男の衣服は焼けてもなく、たぶんその日着ていたであろう衣服を身に着けていた。
「焼けたであろう…衣服も火傷の跡も無いのか…」
佳文は、不思議だった。
確かに、今まで導いたモノは、衣服を着ていたが、
なぜ衣服を身に着けてるのかを、気に留めた事は無かった。
「まぁ…いいや」「導いて帰ろう」
佳文は、自分の髪の毛を一本抜き、若い男の髪に付けた
若い男の手を取り高く手を上げた…が
その若い男は、道路の縁石ブロックに座ったまま動かなかった。
「えっ…間違えた?俺」
佳文は、もう一度繰り返した。
「えぇっ…導けない…どうしてだ…」
もう一度…次は復唱しながら導いてみた。
しかし、若い男は、道路の縁石から微動だにしなかった。
佳文は、車に戻り悩んだ。
「もしかしたら俺、導く力を失ったのか?」
佳文は、そらならそれで嬉しかった。
もう煩わしい行為をしなくて済むからだ。
だが、その時聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「その男は、賽の河原…」
その声は、それだけを言い聞こえなくなった。
「おぃ!!賽の河原ってなんだよ!!」
叫んだが返答は無かった。
佳文は、その場に少し滞在し家に戻った。
玄関の鍵を開け、髪の毛をドアから剥がし家の中に入った。
玄関のドアの鍵を閉め、自分の髪の毛を1本抜き
内側のドアとドア枠に渡し抜いた髪の毛を貼り付け
玄関を上がりソファに座った。
「賽の河原だって?なんだよ…」
そう言いパソコンを開き「賽の河原」と検索した。
「賽の河原…親より先に亡くなった者…五逆罪…
あの若い男は、賽の河原へ連れて行けって事か?」
佳文は、賽の河原の場所も検索した。
「新潟?佐渡?そんな遠くに行けるか!!」
都道府県で検索をしたが、店の名前や企業名が多く出てきたので検索は諦めた。
「あれっ?ちょっと待てよ…どこかの河原で石を積んであったの見た事があったぞ…」
佳文は、記憶を辿ってみた。
「そうだ…昔近所に住んでた後輩のお父さんに、
近くの河川敷に釣りに連れて行ったもらった時だ…」
佳文は、その時の事を鮮明に思い出した。
「おじさん、あの人なんで石を積んでるの?」
佳文の問いかけに、近所に住んでいた後輩の父親は、
「あれは、亡くなった人が成仏できるように、
亡くなった人の家族が祈りながら石を積んでるんだよ」
「お父さん、石の下に死んだ人が埋まってるの?」
後輩がおちゃらけて言うと、おじさんは怒って後輩に拳固を入れていた。
「あぁ…思い出した…あれは仮想の賽の河原なんじゃないか?
あの場所…そんなに遠くなかったはずだし…マップで検索してみるか」
佳文は、パソコンでマップを開き調べた。
「たぶん…この場所だ…中学生の頃サイクリングで走った時、見覚えがあったもんな
ちょうど、マウンテンバイクを買ったしサイクリングがてら明日行ってみよう」
翌日、佳文は、マウンテンバイクを車に積み込んでいた。
「さぁて、出発」
車にマウンテンバイクを積んで、河川敷の駐車場まで、やって来た。
車を駐車場に止めて、マウンテンバイクを車から降ろし、
佳文は、マウンテンバイクに乗り走り出した。
駐車場から数十分走ると、見覚えのある場所が見えて来た。
「そうそうココだ」
大小の石が転がる河川敷きに着いた。
マウンテンバイクを降りて、川へと歩いた。
「あれっ?石が積んである…」
凄く広い河原の、1箇所に石が積んであった。
ただ、賽の河原として積んだのか、遊びで積んだのかは、
佳文には、分からなかったが、
たぶん、亡くなった人の為に積んだ石のよな気がした佳文だった。
「いいのかどうかは、知らないが…ココを、俺の仮想の賽の河原にしよう」
勝手な事をしてると分かっていたが、佳文は、決めたのだ。
「って…あの若い男を…どうやってココに連れてくるんだ…」
佳文は、導かれるモノを、どう河原まで運ぶかを考えてなかった。
「まぁ…いいや…色々試みてダメなら、見なかった事にしよう」
諦め半分で、マウンテンバイクに乗り駐車場へ戻り
マウンテンバイクを車に積んで帰宅した。
夜になり、あの若い男が居る場所へ佳文は向かった。
「さて…どうなるでしょうか…」
そう呟き車から降りた。
若い男は、路肩の縁石ブロックに座って居た。
佳文は、もう一度だけ導く為の動作を試してみたが、
やはり若い男は、微動だにしなかった。
「そうだな…やっぱりか…わかってたよ…」
佳文は、投げやりな言葉を吐いた。
「でも…手は上がるんだからな…」
その若い男の手は、導く動作の中で手は上がったのだった。
「それじゃあ…手を引っ張ったら動くかも…」
そう思った佳文は、若い男の手を取り立たせるように引き上げた。
すると、若い男はスクっと立ち上がった。
「イケるのか?」
佳文は、そのまま手を引っ張り車へと誘導してみた。
「おぉ、歩けるのか…いや動けるのか…」
若い男は、佳文の誘導のまま動き、車まで来た。
「車に乗れるのか…」
佳文は、車の後部座席のドアを開けて先に乗り込み
若い男を引っ張り上げてみた。
すると若い男は、いとも簡単に後部座席に乗った。
そのまま、若い男を、後部座席に座らせ、
佳文は、車に乗り込んだ後部座席の反対側のドアを開け車から降りて、
若い男が乗った側のドアへ行き、ドアを閉め運転席に乗り込んだ。
「う~ん…シートベルトは…いらないよな」
そう言い車を発進させ、堤防道路まで車を走らせた。
堤防道路から河川敷へ降りる誘導道路を下り
今朝確認した場所に着いた。
「さぁ…降りれるかな…このまま乗りっぱなしだけは勘弁してよな」
佳文は、後部座席のドアを開いて、若い男を誘導して車から降ろした。
「イケるじゃない」
おもわず安堵したのか軽い言葉が出てしまった。
「さぁて…賽の河原だよ」
そう言い、若い男を誘導して河原へ向かった。
河原に着いた佳文は、若い男を見て、
「君の代わりに石を積むから待っててくれ」
佳文は、五重石を積んだ。なぜ五重なのかは意味も何も考えてなかった。
「この男…ココに留まって居られるのかな…」
佳文は、河原に建つ若い男を、大きな石の上に座らせた。
座った若い男は、五重に積んだ石の一番上の石に手を伸ばし触れた瞬間、
一番上の石が、コロンっと転がり落ち、
その若い男からポワッと淡い光が出ると共に消え去った。
「えっ?導けたのか?」
こんなのって…ありかよ…
車に戻り、後部座席を見ると…濡れていた…
導かれるモノ導く者 van @vanvanban
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