【ふたりショッピング】
「土曜日って時間あるかな?」
お弁当を電子レンジへ入れる美山さんに声を掛けると、彼女は手を止め少し驚いた様子でこちらをじっと見た。
「何かあるんですか?」
「ちょっと…買い物につき合ってほしくて。」
「珍しいですね、飯島さんからそんなお誘い。何を買いに行くんですか?」
「ええと…服を買いたくて…。」
瞬間、目を見開いた美山さんが私の手を握ってきた。
「任せてください!」
「あ、ありがとう。」
「私、憧れだったんです。主人公がデートのために服を買いに行くのにつき合う、っていう漫画みたいな体験が!」
目をキラキラさせながら眩しい笑顔を近づける美山さん。
慌てて人差し指を口に当てて「しーっ!」と言った。
声をひそめ、美山さんは耳打ちする。
「
「………うん。」
何故かバレバレだった。
「飯島さんに似合いそうなコーデ、考えておきます!」
土曜、待ち合わせの駅に先に着く。
7月になり、梅雨明けの発表はまだだけどここ2日くらいは晴れが続いている。
梅雨が明ければ本格的に夏になる。
今日も蒸し暑く、クローゼットの奥から昨日引っ張り出した半袖のブラウスを着てきた。
スマホを見ていると、向こうから早足で向かってくる美山さんが視界の端に入った。
おお…いつにも増して可愛い格好だ。
白いマーメイドスカートに青いシースルーのトップスを着ている。
細身の美山さんによく似合っている。
長い髪は綺麗に巻かれひとつにまとめられていて、控えめなパールのピアスがきらりと光る。
普段からオシャレだけど仕事がない日の服装はまた違った可愛さがある。
「お待たせしました。飯島さん来るの早いですね!まだ時間までけっこうありますよ?」
「そうかな。ごめん、急かしたみたいで。」
「全然。早めに来るところ、飯島さんらしいです。」
こんなに早めに待ち合わせに来るのはきっと米田さんの影響かも、などと考える。
「メッセで言ってた普段行くお店と今日の予算を考慮して、今日は駅地下のお店を回りましょうか。オススメのお店いくつかあります。」
「ありがとう、助かります。」
「いえいえ。推しカップルを協力できるなんて嬉しいです。」
返答に困り、歩き出す美山さんの横を黙って歩き出す。
「飯島さんの無印良品から出てきたみたいなシンプルな格好も良いですが、もっといろんなもの似合いますよ。」
1軒目の洋服店で壁側に掛かっている服を何着か出して見ながら美山さんは言う。
「特にこれから夏だし、色のある服も良いと思いますよ。」
赤いひらひらしたトップスを私の前身に当ててくる。
「ほら、これとか似合います!」
「そう?派手じゃないかな…。」
「そんなことないですよ。これとこのスカートを合わせて…うん、いい感じ。」
もう片方の手に持っていたスカートも当ててくる。
たしかに、可愛くて素敵な洋服だ。
「おー!似合います!いいですね。」
試着室から出てくる私を笑顔で迎える美山さん。
「ありがとう。」
「可愛いです。ね?」
「本当、お似合いですよ。」
店員さんまで褒めてくれるため、慣れていない私は戸惑いながらも気持ちが良かった。
鏡で見る私はいつもの自分とは違って華やかで、少し照れ臭かった。
スカートはふくらはぎの真ん中あたりの長さだけど、普段はもっと長いスカートばかり履いているためそわそわする。
「じゃあこれを…。」
「飯島さん待って。他のところのも見ましょう。」
美山さんが真剣な顔を近づけた。
「もっと似合うものがあるかもしれないし、この服以外にも探しましょう。ね。」
そう言って勢いよくカーテンを閉めた。
美山さん、もしかして私で楽しんでないか?
2軒目ではまた少し違ったコーディネートを提案してくれた。
美山さんと同じようなシースルーシャツにハイウエストのパンツ。
これも試着だけして、3軒目の洋服屋へ向かう。
「疲れてませんか?」
「うん、大丈夫。でもそろそろお昼だね。」
ショッピングは一時停戦とし、比較的空いている喫茶店に入った。
美山さんみたいな子はあんまりタバコとか好きじゃないだろうな、と勝手に考えて分煙の店を選んだ。
食べ物のメニューが豊富で選ぶのも楽しい。
「飯島さんってこういうお店詳しそうですよね。」
美山さんがメニューから目を離して呟く。
お店の中に興味深々で壁や天井をきょろきょろと見回す。
いつもの気遣いばかりの笑顔ではなく、普段の美山さんってこんな感じなんだと思った。
「そんなにたくさんは知らないけどね。」
「今度仕事帰りにもごはん行きましょう。行ってみたい焼鳥屋さんがあるんです。」
美山さんから焼鳥屋を提案されるとは意外だった。
いつかのようにパンケーキにでも誘われるかと思っていたが、焼鳥屋なら喜んで。
「今日はありがとう。貴重な休みの日に。」
「いえいえ。楽しいので来てよかったです。ところで…」
美山さんが頬杖をつく。
「米田さんとお付き合いされてるんですか?」
「いや、付き合ってるっていうか…何度かごはん行ったりしてて。」
心臓がドキドキと聞こえる気がした。
「でも見てるとなんとなくそうなのかなって思ってましたよ。特に米田さん。」
「え、そう?米田さん、普段無表情じゃない?」
「だって飯島さんのこと目で追ったり優しい表情したりしてますもん。」
そうなの?
私が気づいてないだけで、やっぱり彼は私のことちゃんと好いていてくれてるのか。
「飯島さん、耳まで赤いですよ~。」
ニコニコしながら美山さんは言った。
昼食後、本日3軒目の洋服屋へ。
今日行ったお店はどこも私が好きだなと思えるお店ばかりだった、美山さんはすごいな。
「飯島さん、これとかどうですか?」
グリーンのトップスを手に取り美山さんが話しかける。
今まで見た服の中でダントツで好みだ。
「可愛いね。着てみようかな。」
「そうしましょう。」
お店の人が選んでくれたベージュのスカートと合わせて着て鏡を見ると、とても素敵。
鏡の前でスカートをひらひらさせていると「いいですか?」と美山さんが声をかけてきたので、慌ててカーテンを開いた。
「似合います、すごく!」
手を合わせて美山さんが褒めたたえてくれる。
「今日見た中で一番似合うと思います。」
「本当?私もこれ、一番好きだな。」
いろいろ迷っても、結局はパッとその場で気に入ったものを買ってしまう。
これはこれでショッピングの醍醐味だと思う。
カーテンを閉め、もう一度スカートをひらりと揺らす。
次の休日にこれを着た自分と米田さんを想像して胸がきゅっとなった。
飯島さんのひとりごと 焦がしミルク @tntp0813
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