エピローグ④
「遊びに誘いに来たんだけど、何だかそれどころじゃなさそうだね」
いつも一緒にいる連さんは慣れてきたのか、銀星さんの女神発言をキレイに無視して本題を口にする。
でも銀星さんも無視されていることは気にしていないのか、私たちの背後を見て面白そうに笑った。
「みんな女神を欲しがってるってか?」
「美来、大人気だねぇ」
遥華もはやし立てるように笑う。
遥華に会うのはハロウィンパーティー以降では二度目だ。
前に会ったときは主に橋場のことを報告してもらった。
詳しいことは聞かされなかったけれど、橋場がもう私をつけ狙うことはないということだった。
橋場の粘着性をよく知る私は本当かなと不安になったけれど、遥華は「絶対に大丈夫!」と太鼓判を押していたっけ。
そこまで断言されて逆に何をしたのか気になったけれど、聞きたくないとも思った。
何にせよ、橋場が私を諦めてくれたならいい。
今追いかけて来ている佳桜高校の面々とは違って厄介すぎる相手だったから。
「まあ、俺も女神を諦めてねぇけどな」
ファンクラブの子たちに足止めされている坂本先輩たちを見ながら、銀星さんも便乗してきた。
「それもいいよなー。美来ちゃんが銀星の彼女になって高峰組に来たら俺も料理頑張るし」
連さんまで銀星さんの後押しをする。
しかも唯一味方になってくれそうな遥華まで。
「美来の意志は尊重したいけど、そうなったらそれはそれでいいよねー。私も美来と一緒に居られる機会が増えそうだし」
なんて楽しそうに言っている。
「……」
これは、もう逃げた方がいいのかな?
後ろの皆も足止め振り切って向かって来てるし。
でも、私がそれを決意する前に幹人くんが動く。
「チッ」
私を後ろから抱き締めるようにして、銀星さんにハッキリ宣言した。
「美来が俺を好きだって言ってくれる限り、俺はコイツを誰にも渡さねぇよ」
「幹人くん……」
幹人くんの体温とその言葉が温かく私を包む。
そのぬくもりが心に届いて、幸せがあふれ出た。
「おーおー、幸せそうな顔しやがって……」
からかうような笑みを浮かべて銀星さんが私を見る。
「そんな顔されたら女神の下僕の俺は守りたくなっちまうじゃねぇか」
「……」
いや、だから下僕はいらないって。
突っ込みたいけど、突っ込めなかった。
「今日のところは引いてやるよ。足止めは任せろ!」
下ろしていた髪を後ろで結んで、美人から美男子になった銀星さんは男らしくニヤリと笑う。
「ったく、銀星はホント気まぐれだなぁ」
仕方ないなというように連さんも笑った。
なんだかんだ言いつつも、連さんはいつも銀星さんのサポートしてるよね。
……なんて言うか、オカンっぽい。
「えー? せっかく今日は美来と遊べると思ったのにー」
遥華は唇を尖らせて不満をアピールしていたけれど、「ま、仕方ないか」と最後は納得していた。
「ラブラブな二人を邪魔するわけにもいかないもんね」
そうして笑顔を見せてくれた遥華は、「次は絶対遊ぼうね!」と念を押してくる。
「うん、分かった」
何はともあれ、今は逃げた方が良さそう。
坂本先輩、八神さん、如月さんにつかまると面倒そうだもん。
「行くぞ、美来!」
「うん!」
繋いだ手を引かれ、私は幹人くんと走った。
みんなが銀星さんたちに足止めされているのをチラリと見てから、私は前を走る幹人くんに呼びかける。
「幹人くん!」
「なんだ⁉」
走りながらでもちゃんと私の方を見てくれた彼に、言葉を送る。
「好きだよ! 私が一緒にいたいのは、幹人くんだけだから!」
私が幹人くんを好きでいる限り、離さないと言ってくれた彼に応えるように伝える。
離さないで。
しっかり私を捕まえていてって。
「っ⁉ あーもう!」
幹人くんは耐えられないと言った様子で声を上げると、軽くかがんで顔を近づけてきた。
チュッ
走りながら器用に私の唇を奪った幹人くんは、「俺も好き」と囁いて離れる。
「本当、可愛すぎ。美来には敵わねぇよ」
不意打ちのキスは驚いたけれど嫌ではなくて。
ドキドキ高鳴る鼓動が早くなった。
「……そんな幹人くんに、私も敵わないんだけど」
「ん? なんだって?」
小さな呟きは聞こえなかったのか、聞き返される。
けれど私は首を横に振って「何でもない」と答えた。
どんどんカッコイイところが増えていく幹人くん。
私の方がドキドキさせられることの方が多くなってるように思えて、ちょっと悔しかったから。
だから、私の方が敵わないってことはまだ黙っていることにした。
そうしてまた二人で走る。
手に幹人くんの体温を感じて思った。
私が選んだのは、幹人くん一人だけ。
だから、他の人達からは逃げ続けるよ。
だって、私は【かぐや姫】だからね。
『地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~』 完
地味同盟~かぐや姫はイケメンたちから逃れたい~ 緋村燐 @hirin
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