エピローグ③
「まあ、分かるかな。俺たちも美来を諦められねぇし」
勇人くんが八神さんの行動を肯定すると、明人くんが可愛い顔をイタズラっ子のような笑みに変える。
「そうそう。美来、久保に愛想尽かしたら俺達のところ来ていいんだぜ?」
「いや、愛想尽かさないから」
呆れ交じりで断ると、静かに近くに来た如月さんに髪をスルリと取られる。
「……やはり久保にはもったいなさ過ぎるな。今からでも遅くない、俺のところに来ないか?」
「はい⁉」
驚きの声を上げると、幹人くんに繋いでいた手を引かれまた彼の胸に収まる。
「何してるんすか? 美来は誰にも渡さねぇっすよ?」
守るように腕で囲われ、トクンと嬉しさに胸が高鳴った。
でも、目の前の三人も諦めた様子はなくて……。
「ほう……?」
冷たさすら帯びた眼差しを楽しそうに細める如月さん。
「じゃあ守って見せろよ」
意地悪そうに笑う明人くん。
「俺たちからも逃げられるかな?」
明人くんと全く同じ表情の勇人くん。
ダメだ、逃げよう。
さっきと似た状況に私は幹人くんとアイコンタクトをして頷き合う。
言葉は交わさなくても意図は通じた。
ギュッと手を握り合うのを合図に、私たちは駆け出す。
「あ! 逃げた!」
明人くんの声を背に、私たちは今度こそ生徒玄関を目指した。
***
生徒玄関の手前には友人三人と奏がいて。
「どうしたの美来?」
走ってくる私達にしのぶが問いかけてくる。
そんなしのぶに寄り添うようにそばにいる奏は察したのか呆れの眼差し。
「なんか追いかけられちゃってて、逃げてるの! じゃあね!」
すれ違いざまに答えると、香と奈々が手を振りながら応援してくれる。
「じゃあ妨害しといてあげるよ!」
「よくわかんないけど頑張れー!」
私も手を振り返して、やっと生徒玄関につく。
靴を履き替えると幹人くんと二人、急いで校舎から出た。
「あ! 美来様!」
「美来さん、今からデート?」
出たところには丁度宮根先輩やすみれ先輩といったファンクラブの人たちがいて、何か話していた様子だった。
「あ、デートって程ではないですけど……」
すみれ先輩の言葉に答えながら歩くと、ぐるりと囲むように彼女たちはついて来る。
「今、先日のハロウィンパーティーのことを話していたんです」
宮根先輩がうっとりとした様子で何を話していたのか教えてくれた。
「やっぱりあの時の二人は花婿と花嫁の様で……。久保くんは最近ヘタレになってて頼りないなんて言われていましたけれど、あのときは本当に素敵に見えましたもの」
「そうよ! 【月帝】チーム内でもあれ以降不満の声が出なくなったって聞いたわ」
興奮気味に宮根先輩の言葉に同意したのはちょっとお久しぶりのなっちゃんだ。
……いまだに本名を教えてもらえていない。
そしてそんな二人の近くでコクコク頷いているのは首振り人形の子。
……彼女は私の前で話したことあったかな?
一番初めに階段のところで声を聞いただけな気がする。
「可愛い美来さんを守れるのかちょっと不安だったけれど、あのときのあなた達を見たら大丈夫かなって思えたのよ」
柔らかな微笑みでそう口にしたのはすみれ先輩だ。
それに同意するように、調理部の後輩がキラキラした目で私と幹人くんを見た。
「本当に素敵なカップルです! だから私たち、美来様たちの幸せをお守りしたいと思ってて!」
「あ! 美来もう外に出てるぞ!」
後輩の言葉が終わると同時に生徒玄関の方から明人くんの声が大きく響く。
「げ、もう来たのか」
嫌そうにつぶやく幹人くんに、私は「行こう」と短く告げる。
「みなさんごめんなさい。ちょっと急いでて」
話している最中なのに申し訳ないと謝るけれど、みんな笑顔で見送ってくれた。
「いいえ、私たちは美来さんが幸せで笑顔でいるのが一番の喜びなの。……だから、私たちにもその幸せを守らせて?」
そうして、追って来る男達を足止めしてくれるという。
こんないい人たちに恵まれて、本当感謝しかない。
「ありがとうございます! じゃあ、さようなら!」
「ええ、また明日ね」
笑顔で見送ってくれるファンクラブの人たちにお礼を言って、彼女達と別れた私と幹人くんは校門まで急いだ。
でも校門を出るとそこには待ち構えたように銀星さんたちがいた。
「やっと来たか。今日も綺麗だな、俺の女神」
早速口説き文句のようでいて意味の分からないことを口にする銀星さん。
だから女神は止めて欲しいんだけど……。
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