エピローグ②
「お? 丁度良かったな。今迎えに行こうと――」
「幹人くん隠れて!」
幹人くんの言葉を遮って、私は彼を押しながらちょっとした物置状態になっている階段下の陰に隠れる。
「美来?」
「しっ!」
二人で息をひそめていると、すぐに高志くんと坂本先輩が階段を駆け下りてきた。
「どこにっ⁉」
「幹人くんと会うなら北校舎に向かったんじゃないかな?」
焦る高志くんの声に冷静な坂本先輩の声。
二人は私が向かいそうなところの予測をつけてまた駆けて行った。
「……なんだ? 追いかけられてたのか?」
「うん……なんか、差し入れのお菓子を食べて行けって。幹人くんは待たせておけばいいなんて言うから出てきたんだけど、何故か今日に限って追いかけて来ちゃって……」
まったく、いつもだったら諦めてくれるのに。
まあ、坂本先輩はちょっと楽しそうだから気分転換の遊び半分って感じではあるけど。
でも追いかけっこで気分転換って……小学生か⁉って突っ込むところかな?
「……なんだよそれ。美来を諦めたくねぇって気持ちは分かるけどよぉ……」
「ね? 私は幹人くんの彼女なのに」
呆れたように文句を口にする幹人くん。私は同意するように事実を言う。
「……そうだな」
すると甘さを含んだ声音で優しく囁かれ、軽く引き寄せられたかと思うとこめかみにキスをされた。
「み、幹人くん?」
一気に鼓動が早まる。
「ん? 美来が俺の彼女って言ってくれたのが嬉しくてつい、な」
「そ、そうなんだ」
ハロウィンパーティー以降、幹人くんはあからさまに照れるようなことは無くなった。
緊張していないわけじゃないけれど、それ以上に私を好きだって気持ちの方が大きくて逆に触れたくなるんだって。
嬉しいけれど、それはそれで私の方が持たない。
「眼鏡しなくなったから、こういうところにもキスしやすくていいな」
そう言ってまたこめかみにチュッとキスをされ、そのまま髪をサラリと梳くように撫でられる。
「っ!」
あの日橋場に眼鏡を壊されてしまったから、あれから素顔のまま過ごしていた。
その橋場の脅威も無くなったので、奏にも地味な格好はもういいだろって。
だから今、私は眼鏡もおさげもない素の状態で過ごしている。
「えっと……幹人くん?」
「ん?」
見ているだけで、私を愛しいって思ってくれているのが分かるような微笑み。
好きな人にそんな顔されたら……もうホント、どうにかなっちゃいそうだよ。
「その、帰ろっか」
ドキドキして、幹人くんの甘さに溶かされてしまいそうで……私は逃げるように帰宅を促した。
でも。
「そうだな、いちゃつくのは邪魔が入らねぇ部屋でしたいもんな?」
「っ⁉」
部屋でゆっくり続きを……と解釈されたようで顔に熱が集まる。
でも私自身それも悪くないって思ってしまうから否定の言葉は出せなくて……。
「帰ろっか……」
としか言えなかった。
そうして階段下の陰から出た私たちは、坂本先輩たちに会わないよう生徒玄関へ向かう。
すると今度は八神さんとバッタリ出くわした。
「ん? 何だ幹人。美来を迎えに行ってそのまま帰るって言ってなかったか?」
少し回り道をしたから、どうしてこっちに来ているんだと不思議がられた。
「いや、ちょっと追いかけられてて……」
私が簡単に説明すると、八神さんは「はっ」と笑う。
「まあ、美来は誰もが求める【かぐや姫】だからな。俺だっていつでも美来を狙ってるぞ? 隙があればかっさらうからな」
男らしい、少し野獣ぽい笑みを見せた八神さんは私に腕を伸ばす。
肩を掴まれ抱き込まれそうになって、思わずくるりとかわした。
「ちょっ、八神さん⁉」
八神さんの腕から逃れた私を受け止めるように、軽く抱き締めた幹人くんが抗議の声を上げる。
でも野獣のような本能に火でもついたんだろうか?
八神さんはニヤリと笑ってまた腕を伸ばしてくる。
「そら幹人。大事な彼女、守れるか?」
「なっ⁉ 遊ばないでくださいよ!」
私を抱いたまま幹人くんも八神さんの腕をかわす。
でも八神さんは諦めなかった。
「まあ、半分遊んでるけどな……。でも俺は本気だぞ?」
目が明らかに獲物を狙う野生動物になっている。
「チッ! 逃げるぞ美来!」
「うん!」
幹人くんの逃亡宣言に頷いた私は、そのまま手を引かれて一緒に走り出した。
そのまま生徒玄関に向かうと靴を履き替えている間に追いつかれてしまう。
だから仕方なくまた回り道をして八神さんを撒くと、今度は森双子と如月さんに出会ってしまった。
今日は本当にみんなと会う日だなと思う。
会えない日は昼食のときの食堂以外では全く会わないのに。
「どうした美来? そんなに息を切らして」
「久保に連れまわされてんのか?」
不思議そうに声を掛けてくる勇人くんと、幹人くんに濡れ衣を着せる明人くん。
「それとも俺に会いに来てくれたか?」
そして都合のいい解釈を口にする如月さん。
半分くらいは冗談だろうけれど、見透かすような目でじっと見てくる彼は確実に私を狙っていた。
「違います! ちょっと追いかけられてて……」
ハッキリと否定しつつ簡単に状況を説明しながら、なんかさっきも似たようなやり取りをしたなぁと思う。
そしてその後の展開も似てしまった。
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